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第2話:はじめての側近
魔王城――。
広く、冷たく、誰もいない。
「はぁ……やっぱり、誰も来ないよね……」
玉座の横に正座するトアルコは、今日も掃除道具を持って床を磨いていた。
魔王と呼ばれて一週間。軍も将も、魔族たちは誰一人として現れなかった。
「命令がないなら意味がない」 「征服をしない魔王など、名乗る資格がない」
そんな言葉だけが風のように届いていた。
「……でも、無理に来てもらっても、困らせちゃうし……」
床を磨きながら、トアルコは小さな花瓶に水をやる。
そのとき――扉が、重たく開いた。
「……ここに、いるのか。新しい魔王ってやつが」
姿を現したのは、少女のような魔族・リゼだった。
短く切り揃えた銀髪、黒い鎖のような装飾がついた戦装束。背には、巨大な鎌を背負っている。
その目は鋭く、まるで世界を睨んでいるようだった。
「私を側近にしないか。仕事は、しない。護衛もしない。ただ、ここにいたいだけ」
「……えっ……? い、いいけど……どうして……?」
トアルコの問いに、彼女はゆっくりと答えた。
「お前は、“痛い思いはしなくていい”って言った。……そんな魔王、他にいなかった」
続いて現れたのは、老魔族・ゲルダ。
背中を丸めた魔族で、深い藍色のローブをまとい、長い眉毛がひょろひょろと揺れている。
杖をつきながら歩く彼は、城内をぐるりと見渡して一言。
「ほう……無駄な威厳も血の匂いもない。悪くない」
「え、あの、ここに来た理由は……?」
「暇だったからだ。あと、お前の“何もしないけど真面目”な空気が、気に入った」
「……変な褒められ方……」
そして三人目。
誰もいない玉座の裏から、寝袋に包まったままの魔族が出てきた。
「……zzz……なごむ……この空気……zzz……」
トアルコが驚いてのぞき込むと、眠そうな目をぱちりと開ける。
「ぼく、ネムル。……眠る毒使い。眠らせるの得意……でも、争いは嫌い……」
そのまま再び寝袋にもぐる。
「……あの……よかったら、ゆっくりしていってください……」
その夜、三人と一緒に、小さな食事会が開かれた。
手作りのスープと、炊きたてのパン。豪華ではないけれど、静かで穏やかな時間。
「おい、これ……うまいな」
「塩の加減が絶妙だ。やるな、魔王」
「zzz……おかわり……zzz」
トアルコは恥ずかしそうに笑った。
「僕が作ったのは……ちょっとだけなんだけど……食べてくれて、ありがとう……」
魔王城は、静かに、少しだけあたたかくなった。