コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
──程なくして会社へ着くと、助手席に座ったその人は普段と変わらないような仕事モードの顔つきに戻っていて、先ほどまでの悲哀に満ちた表情は感じられないようになっていた。
「そうだ、今日は社内を私が案内をするから」
車を降りようとして、ふと思いついたように蓮水さんが口にして、
「案内だなんて、そんなことは……」
と、反射的に断った。CEOともあろう方に、社内を案内してもらったりしたら、なんだか悪目立ちをしてしまいそうで……。
自分の中でいろいろな感情が渦巻いている今は、できれば目立たずにおとなしく運転手に徹していたいような気持ちもあった。
「こないだ君が描いたイラストをミーティングで見せたら、みんな是非描いた当人に会いたいとも言っていたからな」
「えっ……み、見せられたんですか? あのイラストを!?」
「ああ、まずかっただろうか?」
「まずいと言うか……」と、口ごもる。大勢の前で、軽い気持ちで描いたような絵が披露されたことが、とんでもなくこっ恥ずかしいと言うか……。
「朝の会議が終わった後に、社内を回るから、待機をしていてもらえるだろうか」
「…は、はい…」
同意する以外にもはや選択肢はなさそうで、愛想笑いを浮かべつつ頷いた……。