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「おい、叶! このバンドの取材、おまえが行ってこい!」
編集長から大声で名指しをされて、急いでデスクに駆け出していく。
「どのバンドですか?」
「……これだ。まだデビューしたてで、人気はこれからだから、半ページ程度の扱いでいい」
渡された短い紹介資料に、目を走らせる。
バンド名は、『KILLA』(キラ)──見た目アイドル系らしいバンドで、男性ばかりの4人組だった。
このプロダクションは、出版社から請け負う形で、音楽雑誌の編集を行っている。
時間の不規則な音楽業界に合わせるため、仕事には時間制限はなく、できる時にできる人が仕事をするスタンスで、
はっきり言ってたいした休みもなく、とにかくきつい職場だったが、それだけやらせてもらえる仕事が回ってくることも多く、
私──叶 未来留も、必死で仕事に食らいついて、そろそろ三年目が過ぎようとしていた。
カメラマンに予約を取り付けて、KILLAというバンドの取材を入れた。
バンドは、レコーディング前の空き時間を使って、取材を受けてくれるとのことで、私はカメラマンといっしょにスタジオに出向いた。
うちのような人手が詰まった編集プロダクションでは、なるべく少ない人数で取材に赴くことが多く、
時にはカメラマンすら、自分でするようなことも少なくなかった。
でも、デビューしてまだ間もないようなバンドの取材には、なるべくカメラマンを同行して、いい素材を撮ってもらって、少しでも名が行き渡るようにしてあげたいと、私は考えていた。