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52【悟の胸の内】
たまたま、その日の朝、父と母の諍いを聞いてしまった。
これまで一度も聞いたことのない母親の嫌味発言。👹
俺が、2人の前に出ることはなかった。
これまで彼らは仲の良い夫婦だったから、何事かとただ驚いてしまった。
ただ、息をひそめ、降りてきた階段の途中で、耳をダンボにして成り行きを
伺った。
親父が、自分のことを何か怒っているのか❓ と母親に訊いていた。
それに対して母親が――――
「あなたは、余所の女性に自分の大切な、それも少ししかないプライベートな
時間を使っているのよね」
この質問に、俺は前のめりになった。
「え~っと、アレ、見ちゃったんだ?」
なんという、考えられないような返し――――。
親父の、有り得ない能天気な返事に今度はひっくり返りそうになった。
「相手の女性は誰なの? 年齢は? 」
おぉ、そんなこと問い詰めたりしなさそうな母親が、ちゃんと問い詰めてる
じゃん。『そうだー、頑張れ~。チャラい男を問い詰めろ~っ』
母親大好きな俺は、心の中でめいっぱい応援した。
次々と繰り出される母親の怒りの質問に、ヘラヘラと答える親父。
「ただ、相談受けてただけだから……
25才で部下なんだ……
仕事を一緒にしてるからさ、ランチは一緒にすることもあるよ」
親父はそれに対して反省の色も見せず、返事を連ねていく。
そして――――
「とにかく部下とあんなメール/LINEの遣り取りは止めて、止めてください」
という母親の頼みを親父は軽くスルーした。
それから――――
「由香、無理だよ~。仕事絡みだからさっ。
こんなの浮気のうちに入んないでしょ? しっかりものの奥さんだから
こんなことで怒るなんて思ってもみなかったよ、正直。
小さいことなんて気にしなくていいんじゃないかなぁ。
今まで俺のこと、詮索せずに俺たち上手くやってきたんだし。
今まで通り、仲良くしようよ」
ふざけたことを言ったかと思うと、反撃のチャンスを与えず親父は
会社に遅れそうだと言いながら、家を出ていった。
『今まで通り、仲良くしようよ』と言った親父の言葉が、妙に俺の記憶に残った。
最近何気に俺も気付いていた。
ずっと、スマホを手放さず、何かに夢中になっていたことを。
ゲームでもなく、歌でもなく、女とのイチャイチャな遣り取りだったわけだ。
俺の親父は、いつからか、人でなしになっていた。