TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
シェアするシェアする
報告する

「ねぇ、私、忙しいんだけど」

私はノートパソコンのディスプレイから目を離さずに言った。

「だから、飯を作りに来たんだろ」と、龍也《たつや》はジャケットを脱ぎ、シャツの腕をまくる。

「じゃあ、ご飯作ったら帰ってよ」

「うわ、冷てー」

「昨日は合コンだったんでしょ? いい子、いなかったの? 若い子揃いだって張り切ってたじゃない」

冷蔵庫を開ける龍也の背中を見ながら、言った。

「若けりゃいいってもんじゃないな」

「なに、それ」

龍也は自分が買って来た食品を冷蔵庫に入れ、入っていたいくつかの食材を出す。うちの冷蔵庫の中身は、私より彼の方が詳しい。

「なんかさぁ、あのノリに疲れちまって」

「やめてよ、おっさんみたいなこと言うの」

「お前こそどうなんだよ。前の男と別れて結構経つだろ」

トントントン、とリズミカルに包丁がまな板を叩く音がし始めた。

「誰と付き合っても、どうせ別れるんだし……」と、私は小声で言った。

「ん? 何だって?」

「仕事が忙しくて、それどころじゃないだけよ」

私はわざと音を立ててキーボードを叩いた。

龍也が作ってくれたのは、もやしとネギたっぷりの味噌ラーメン。私一人ならカップラーメンだったろう。

「夜は何、食いたい?」

「昼ご飯食べながら夜ご飯の事なんて、考えられない。——つーか、ラーメン食べたら帰ってよ。本気で忙しいんだから」と言いながら、ズルズルと麺をすする。

寝室の隅に置かれた、龍也のスポーツバッグには、いつも着替えが入っている。泊まるつもりで来たのだろう。いつも、そう。

「わかったよ。今日は一回でやめるから」

「何もわかってない!」

「わかってるよ。忙しいんだろ? ホントは二回のところを一回にしてやるって言ってんだから、いいだろ」と、感謝しろと言わんばかりに頷く。

「欲求不満なら、昨日のうちに若い子捕まえとけばよかったじゃない」

「あのなぁ、俺はそんなにお手軽じゃないんだよ。顔が好みとか、身体がいいとか、若いとか? そんなんだけでヤりたくなるほど欲求不満じゃねーんだよ」と、箸先を私に向ける。

「だったら、ヤらずに帰って」

「晩飯はあっさりがいいよな」

こんな調子で、龍也は毎週末のように私のアパートに泊まっていく。平日も、必ず一日は来る。

龍也に彼女がいない時は。

私に彼氏がいない時は。

二か月前、私が彼氏と付き合いだしてから別れるまでの半年間は、会うどころかメッセージの交換すらしていなかった。

それが、私たちのルール。

どちらかに恋人がいる間は、他人。

私と龍也は同じ大学のサークル仲間だった。その名も『OLC』。O大学ルーズサークル。特に決まった何かをするでもなく、とにかくまったり何かを楽しもう、なんて、サークルと呼ぶにはおこがましい集まり。

私は同じ学科で友達になったさなえと見学に行き、サークルの新田大和《にったやまと》先輩に一目惚れをしたさなえに頼み込まれて、サークルに入った。

二か月ほどでさなえは大和先輩と付き合い始め、五年前に結婚した。

さなえと大和先輩の結婚式で、疎遠になっていたサークル仲間が顔を合わせ、中でも気の合った七人で時々飲むようになった。

龍也とは年も同じで、性別を感じさせない仲間だった。

再会してからも、それは変わらなかった。

龍也との関係が変わったのは、四年前。再会して一年が過ぎた頃。

龍也が友達でセフレになった。

互いに恋人がいない時だけ、友達でセフレ。

自暴自棄になっていた私は、拒まなかった。

龍也とのセックスなんて、気恥ずかしくて笑っちゃうんじゃないかと思っていたのに、意外にも盛り上がった。友達としてじゃない、男と女の顔に興奮したし、相性が良かった。

龍也は大雑把な性格で、サークル内ではムードメーカーだった。

なのに、料理とセックスは几帳面で、とにかく丁寧で、優しい。

『自分勝手に突っ込まれて、ガンガン突かれるのかと思った』と言ったら、本気でしょげていた。

「あきら……?」

耳元で名前を囁かれ、私はハッとした。

「意識、飛んでたろ」

バカ丁寧に時間をかけて全身を舐めつくされ、続けて三度もイかされれば、意識も飛ぶ。

「大丈夫か?」

大きな手で頭を撫でられ、私は再び目を閉じそうになる。

「寝るなよ?」

「じゃあ、早くシて」

私の足の間で存在をアピールしているモノに手を伸ばし、キュッと握る。ゆっくりと上下に擦ると、龍也がはぁっと息を吐いた。

龍也が私の身体を知っているように、私も龍也の感じることを知っている。

龍也は擦れらならキスをするのが好き。というか、とにかくキスが好き。

そして私は、龍也からキスをせがまれるのが、好き。

擦りながら、もう片方の手を裏筋に這わすと、先からヌルッと汁が滲む。

「あきら……。キス……」

苦しそうに、気持ち良さそうに私に顔を近づける。

「どうしよっかな」

わざと焦らしてキスを避ける。

「このままイっても、一回は一回ね」

その途端、龍也が私の手からすり抜けた。

「時間制限はなしだからな」

キスが先か、挿入が先か。ほぼ同時に、攻め立てられた。

「んっ——! あ——っ!!」

両足を肩に担がれ、いちいち奥まで挿入《はい》ってくる。

「あーーー。気持ちいー……」

龍也が眉をひそめて言った。

私の膣内《なか》で感じている龍也の顔が、好き。

こうしている間だけは、嫌なことをすべて忘れられるから。

友達だとかセフレだとか、そんなことは関係ない。

互いの体温を肌で感じている瞬間《いま》だけは、世界のすべては互いだけ。


このまま世界が滅べばいいのに……。


そんなことを願いながら、私は意識を手離した。

友達、時々 他人

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

19

コメント

2

ユーザー

お邪魔します🙇

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚