テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#だてなべ
(深澤視点)
ザワザワ……
雑誌の撮影現場。
いつも通り、俺らは軽い雑談を交わしながら撮影の準備をしていた。
Snow Manが九人体制になってから何年か経ってる。
六人の時よりもいっぱい仕事が入ってくるようになった。
今日もその一つ。
今まで俺らのことなんて見向きもしなかったここのスタッフさんが、今をときめくうちの目黒に目をつけたってわけ。
そういう裏側のことを考えちゃうと、すこーし複雑な気持ちになるけど…
俺たちはまだ走り出したばっか!
いっぱい仕事を手に入れて、知名度をどんどん上げないと!
「ふっか。」
そんなことを考えてたら、急に名前を呼ばれた。
「照?」
名前を呼んだのは、照だったみたい。
少し心配そうに俺のことを見ている。
「どしたの?わら」
得意に笑顔で笑ってみせる。
「いや、緊張してんじゃないかなって思っただけ。あんま気張んなよ。」
なるほど、そういうことか!
確かにちょっと緊張してるかもな。
照はこういうことにすぐ気づく。
さすがリーダーって感じ?わら
「ありがとね。でも……」
俺は少しため息をついて後ろを見る。
「どないしよ…もし、何かやらかしたら…」
「大丈夫だって!そん時は俺らでカバーしてやんよ!」
「さっくーん!!」
「あ、翔太。このお菓子あるよ。」
「うわっ!まじじゃん。」
「めめ、ラウ、何してるの〜?」
「阿部ちゃーん。」
「めめがね、さっきね!」
俺以上に緊張してたり、逆に緊張もクソもなかったり…
楽屋はずっと騒がしい!
……でも、これくらいがちょうどいい。
「はぁー…ったく、あいつら…」
照が頭を抱える。
俺も苦笑いしながら答える。
「まあ、いいじゃん?あんくらい緊張感ない方が!わら」
「まあな。」
俺が笑いかけると、照も目を細めて笑ってくれる。
「Snow Manの皆さん、スタンバイお願いします。」
スタッフさんの呼びかけで、さっきまでの騒がしさが消える。
今ここにいるのは、プロの、アイドルとしてのSnow Man。
「はい!」
元気のいい挨拶で、俺らは撮影に挑む。
「あ〜…つっっっっかれたああああっ!!」
撮影後、翔太の緊張の切れた声を合図に、メンバーの緊張も解けていく。
「お疲れ様〜!」
「思ったより長引いたなぁ…」
「失敗しなくてよかった〜!」
各々の感想を言いながら、衣装を脱いでメイクを落とす。
……って、照はもう着替え終わってんじゃん!?わら
さすがだわ〜、わら
今日の撮影。
俺は……あんまりカメラには映んなかったかもだけど、全力で頑張れたと思うし、すんごいいいものになったと思う!
それにさ、こうやって9人で撮影するって言う空気が、俺はすんごく好き!
「そーだ!ちょいちょい!照、翔太!止まれー!」
佐久間が思いついたように、帰ろうとする照と翔太を引き止める。
「この後さ、飲みにいかね?」
佐久間が片手で親指を立ててウィンクする。
いいね!9人でってのも久しぶりだし!
みんなも乗り気だしね。
この後は9人で飲み会!…の、はずだったんだけどな…
「え?俺が、ですか?」
楽屋を出ようとしたら、スタッフさんに声をかけられた。
それも、俺1人だけ。
リーダーの照とか、お目当てのめめじゃなくて?
疑問には思ったんだけど…スタッフさんが言うんだし、こういう時に良き関係を築いとかないとだしね!
それに、これから長く付き合っていくかもしれないしな。
「わかりました。すぐ向かいます。」
みんなには悪いけど、飲み会は俺抜きでやってもらうかぁ。
〜LINE〜
『ごめん!急遽予定入って飲み会行けねーわ!』
『まじか!?それは残念』
『行けそうだったら行くよ』
『おけおけ!あいつらに伝えとくわ、それと、店と解散の時間も送っとくね〜』
『ありがとな〜、飲み会楽しめよ!』
『にゃす!そっちも頑張れよ〜』
「これでよしっと!」
佐久間にラインを送って、目的の場所に向かう。
「ここ、かな?」
呼ばれた場所は、スタッフさんのお部屋みたい。
寝泊まりする人とかもいるから、こういう場所が設けられてるんだって!
…いやいや、そんなことより!
今まで撮影後に呼び出されることなんてなかったし…
なんか緊張してきちゃったじゃん!
そもそも、なんで俺だけ呼び出し?
1人だけ呼び出しなんて、なんか変じゃないかな?
説教だったら…嫌だな〜、わら
急に怖くなってきた〜…
「失礼しまぁす…」
恐る恐るドアを開ける。
ゆっくり部屋に視線を移してみたら、そこには優しそうに微笑んでる男がいた。
この人って…撮影中にちょっと遠くから見てた人だよね?
この人が、俺のことを呼び出した?
「深澤辰哉くん、だね?」
先に口を開いたのは向こうだった。
少し申し訳なさそうな顔をする。
「いやぁ、急に呼び出して申し訳ない。とりあえず座ってくれるかな。」
と、俺をフカフカのソファに座らせて、茶菓子まで出してくれた。
この感じは、説教ではなさそうだ!
心の中でホッとすると、スタッフさんが話し始める。
「名前を伝えるのを忘れてたね。僕は“丸山“と言うものでね。呼び出したのは、深澤くんに大事な話があるんだ。」
「大事な話?」
どのお菓子をもらおうか悩んでいた俺に、丸山さんは微笑みかける。
大事な話…?
それ、本当に俺でいいのか?
そういうのは、それこそ照とか、メンバー全員での方がいいんじゃ…?
さすがに、心配になる。
「あの、大事な話なら俺1人じゃない方がいいのでは…?」
不安で、丸山さんに聞いてみる。
「ああ、全然大丈夫さ。……むしろ……」
丸山さんは優しく頬笑んでから、少し目を細める。
丸山さんの瞳の中の俺と目が合う。
「深澤くん“だけ”じゃないとダメなんだよ。」
「………ぇ?」
少し、背筋が冷える。
何かおかしい。
この人のことを信用していい?
寒気、嫌な予感がする。
急に不安になって、俺は丸山さんの顔を見つめ直す。
でも、さっきの怪しい顔じゃなくて、いつもの優しい笑顔だった。
「ところで、本題なんだけどね。」
「…あ、はい!」
硬直する俺に構わずに、丸山さんは話を進めてく。
そして、次に続いた言葉は、俺の不安をかき消すものだった。
「君たちSnow Manに、この雑誌の“専属モデル”になって欲しいんだ。」
にこやかに告げられた言葉。
専属、モデル…?
俺らが……?
その意味を理解するまで、やや時間がかかった。
しばらくして、やっと声が出る。
「本当、ですか…!?」
驚きと興奮でさっきから汗がやばい!
こんなことあるのか!?
この雑誌は割と多くの年代の人たちが見てる。
ここで俺らが専属モデルになれたら、知名度と人気も上がるんじゃない!?
やばいって!早くみんなに伝えたい!
やったよ!俺ら、専属モデルになれるんだって!って。
「君たちのことを見ててね………とか、……」
丸山さんは、まだ何か言ってる。
でも、今の俺には全然内容が入ってこなかった。
ただ、俺らのことをいっぱい褒めてくれてることはわかる。
「…期待してるとこ悪いんだけどね、さすがにただってわけにはいかないんだ。」
「……!」
丸山さんの言葉で、ようやく戻ってくる。
もちろんだ。
そんなことはわかってた。
タダでなれるほど、この業界は甘くない。
そんなことわかってる、わかってるけど…
胸の中の熱が消えない。
どうすればいい?
それを聞こうとする前に、丸山さんが口を開いた。
「深澤くん。」
優しい声音で名前を呼ばれる。
空気が変わった気がした。
頭の中では、微かに警鐘が鳴ってる。
でも、そんなことがどうでもいいと思える。
何をすれば、俺らは専属モデルになれる?
それが、頭の大部分を占めてる。
「何、ですか?」
期待まじりに、丸山さんをに問いかけた。
目が合うと、丸山さんは目を細めた。
絡みつくような、ねっとりとした視線が俺の身体にまとわりつく。
舐めるような視線を受けて、身体がこわばる。
丸山さんは、猫撫で声で“条件”を告げた。
「深澤くんがね、もっと“頑張って“くれたら…専属モデルも、連続表紙も、各々のメンバーの大型特集も、単独表紙を飾ることだって……ぜぇんぶ、夢じゃあないんだよ…」
囁かれるような声と絡みつく視線。
気持ち悪い…
やばいんじゃない……?
警鐘がぐわんぐわんってしてる。
早く、この部屋から逃げ出したい…
みんなのとこに…行きたい……
でもさ、それ以上にさ……
並べられたもの、その全てが俺らの求めてるものばっか。
グループだけじゃない。
メンバー1人1人にスポットも当ててもらえる。
メンバー1人1人に注目してもらえる。
そうすれば、みんなに仕事がいっぱいくる!
最高、じゃない?
でも…
もっと“頑張って“くれたら…
この言葉だけが引っかかる。
これってさ、ほんとにただのお仕事?
丸山さんの視線、肌にねっとり絡みつくような感覚…
丸山さんの言いたいことって…そういう…?
考えすぎ、考えすぎであってほしい。
頭の中の警鐘が、頭痛を引き起こすほど大きくなってる。
……でも、待ってよ。
俺が、頑張るだけで、グループとメンバーの人気が爆上がりするの?
それで、いっぱいお仕事も増えるわけじゃん?
どんドン人気も上がってくわけじゃん?!
それって、間接的に俺がSnow Manを支えてるってこと?
俺の力で、みんなを人気に導けてるってことだよね!?
じゃあ、よくない?
心臓がバクバクしてる。
胸が熱い。
もう、警鐘なんか聞こえない。
これで、俺らはもっと飛躍できる。
「……なんでも、します…!」
興奮と、微かに残る不安に震える声で、俺はゆっくり顔を上げる。
そう答えた瞬間、丸山さんの表情が歪んだ。
コメント
1件
おお…これは重い展開だわ。ふっかの「なんでもします」って決意の裏にある、グループのためならって自己犠牲の覚悟が痛いほど伝わってきた。丸山さんの優しい笑顔の裏にある圧が気持ち悪くて、読んでるこっちまで背筋が冷えた。Snow Manのわちゃわちゃした楽屋の空気が最初にあってこそ、この暗転が際立つ構成、めちゃくちゃ上手いと思う。続きが気になりすぎる…!