ダンジョンの攻略――といっても攻略とは呼べないが、ザームからの追っ手には若干飽きがきていた。そんな状況の中、可能性を信じて飛び込んだ川の上流でまさかの再会だった。
盗賊剣士の彼とは下手をすればもう会えないかと思っていた。それだけに、ここでの再会は新たな展開の始まりなのではないだろうか。
「おぅ! 俺だ。敵に不意打ちをくらわそうと思って引きずり込んでみたが、まさかお前だったとはな!」
レイウルムにいたジオラスの弟デミリスの話によれば、ジオラスは遺跡の道案内で連れられていた。それも雑魚連中では無く、ザームの実力者と一緒という話だった。
いつまでたっても会えず、無理やり古代遺跡巡りに変わっていたわけだが――。
「ジオラスは自由を奪われていたはずでは?」
「まぁな。ザヴィ遺跡までは確かにそうだった。だがあの遺跡には大したもんが無くてな。鑑定士ってのもついて来ていたんだが、途中でやられちまった」
「魔物に?」
「いや、連中にだ。鑑定するもんが出なけりゃ、邪魔になるだけと判断されたんだろうな……」
気性の荒い奴はそんなにいないと思っていたが、非道な奴も紛れていたようだ。
「ジオラスはどうしてここに?」
「必死に逃げた結果ってやつだ。恥ずかしいが、ザヴィ遺跡からここのダンジョンに入るまでずっと拘束されててな……」
「それは実力者がいたから?」
「魔法を使う奴で厄介なのが一人いて俺にはどうにも出来なかった……。しかし幸運だったぜ! 最初の滝つぼがあるだろ? あそこで俺だけ別な所に流されちまってよ! 奴らとはぐれたってわけだ」
彼の話を全て信用するわけでは無いが、滝つぼは共通の話だ。そもそも、こんな場所で出会うこと自体あり得ないことでもある。それなら素直に話を聞いた上で判断するしかない。
「それで、これからどうするつもりです?」
「ここに迷い込んだのがアックで良かったぜ! 敵だったらどうにも出来なかったが、お前になら頼めるし託せる!」
「え?」
制限下のダンジョンに入ってしまった時点で、魔法で無理やり出ることが出来ない。もちろん物理攻撃も同様だ。しかし、ジオラスの表情からは何かの自信が満ち溢れている。
「そういや、他にも誰か一緒に来てんのか?」
「今は二人しかいないけど、仲間の彼女たちが外で待機してますよ」
「二人か。それは都合がいいな!」
「はい?」
「アック。お前にテレポート《転送》を頼みたい。使えるよな?」
もしやここから脱出しようとしているのか?
ただでさえ不安定な魔法に加え、現状は使用魔法に制限がかかっている。そのことを知らないジオラスには正直に話すべきだろうな。
「しかし、このダンジョン内は使える魔法が限られてとてもじゃないけど使えませんよ?」
「魔力自体は問題無いんだろ?」
「そりゃあまぁ」
「――ってことで、これをお前にやる!」
ジオラスは腕に着けていた腕輪を外し、おれに手渡してきた。腕輪にしては随分と宝石が散りばめられていて、何とも言えない派手さがある。
もしかしてこれは――!
「腕輪は遺物の……?」
「やはり遺物のことを知っていたか。その通りだ! 始末された鑑定士からくすねたもんでな。しかしこの腕輪は魔力が無いと使えねえ。だがアック。お前なら使いこなせるんじゃねえかと思ってな!」
さすが盗賊の頭ともいうべき行動力といったところか。ジオラスは盗賊で剣士だが魔力は無いけど。
「どんな効果があるんです?」
「転送魔法が込められている腕輪で、【エラトラリング】って名前らしい。ザヴィ遺跡からここに飛んで来た時にその腕輪をそう呼んでいたから間違いねえ」
――なるほど。
だから一部の連中とは遭遇しなかったわけか。転送もされず自力で来ているのはほとんどが傭兵と魔導士。そこそこの武器は支給されているようだが、移動に関してはそこまで面倒を見ないといったところか。
「転送魔法ですか。でも行き先は……」
「魔力のある奴が決めた場所に飛べるのは確かだろうな! わざわざダンジョンの名前を唱えていたし、間違いないはずだ」
「……つまり、唱えた場所に飛べる便利アイテム?」
「そうだと思うぜ! アックなら飛べるはずだ。それをお前にやるから是非頼む!!」
アイテムということは、魔法制限がかからないということになる。そうなるとあっさりとここを抜け出せるということになるが、ミルシェたちを置いて行くわけにはいかないしまた戻ることになりそうだ。
「ちなみに、ここの小屋にいて何か起きてないですか?」
「そういや、その腕輪を着けた時に何か聞こえた気がするな。しかし俺には魔力がねえし、何でも無かったんだろうよ」
「……まぁ、外で待っている二人にも説明するんでここを出ますか」
「もちろんだ! よろしく頼む!」
この話をルティに聞かせると多分その時点で一緒に脱出したいと泣き出しそうだな。しかし、そう上手くいかないようになっているし仕方が無いと思うしかない。
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