「おい、それよこせよ!」
俺は、荒井 遥大アライ ヨウタ が面白そうなゲームを持ってたから、それを俺に渡すように指示した。
だけど、遥大は珍しく俺に抵抗した。
「い、嫌だ!これは、僕の大切な物なんだ…!」
「…」
『何だ、その態度?生意気な…っ!!』
俺は、無理矢理そのゲームを取り上げた。そして、その画面を壊そうと手を上げた。
「ハハッ、これでどうだ?壊されたくなけりゃ、俺によこせよ!」
「っ…..」
その時だった――!
「青人くん何してるの?」
「….」
そこに現れたのは、クラスの女子――坂井 風南サカイ フウナ だった。
風南は、俺が何かすると、いつもこうやって注意をしに来る。
だけど、決して暴力を振るったり、強い言葉を発したりはしなかった。
「遥大からゲーム機もらった。」
「青人くん、もらったんじゃないでしょ?」
「っ。」
風南は、ずっとその様子を見ていたらしい。
俺がこれを“奪った”という事を知っているようだった。
「奪った。」
「でしょうね。すぐ返しなよ?」
「返す?これはもう俺のもんだ!!」
「何言ってるの?許可もらってないじゃん!」
「。」
風南は いつもこうして、俺が奪ったり、壊したりしようとするのを妨げてくる。
だけど何故か、腹は立たなかった。
そして、もうこれ以上やっても面倒くさいだけだから、と俺は仕方なくゲーム機を返してやった。
「坂井さん、ありがと!!」
「どういたしまして!」
「っ….」
遥大は、俺の目の前でそう言った。
――俺だって、自分が悪いことは分かってる。だけど、もう今頃直すことは出来ない。
もう高2だって言うのに、今更性格なんて直せやしない。
だから、こうやって続けてしまう。馬鹿馬鹿しいことを….
「青人くん、偉いね!」
「….」
風南は、そう言って俺の頭をポンポンっと撫でた。
風南の方が背が高いから、いつもこんな感じだ。
「俺はもう子供じゃ無いっ!!」
『頭を撫でられながら「偉い」って言われるなんて、幼稚園児みたいじゃないか…!』
それが恥ずかしくて、俺はすぐに走り去った。
そんな青人くんの様子を、私はずっと見ていた。
「….(青人くんも、もう自覚してるんだろうな…)」
青人くんだって、これが悪いことだとは分かってるはずだ。
だけど、もう今更… って思ってるに違い無い。
だから、私は怒鳴ったりしない。怒鳴られると、余計青人くんが辛くなるだけだから….
今さっきだって、遥大くんが私に「ありがとう!」って言ってた時、青人くんの表情は辛そうだった。
悔しい! とか、そういう単なる心情では無いと思う。
でも、私が頭を撫でたら… 頬はリンゴみたいに赤く染まっていた。
照れてるのかな….
「青人くん、可愛いなぁ…」 心の中ではそう思ってる。
青人くんは、性格がちょっと乱暴なだけで凄く嫌われている。
でも、私は青人くんのことが嫌いじゃない。
実際見た目もイイし、カッコイイ所だって沢山ある。
それが、まだ見つかってないだけ___
――私は、そう思っていた。
「はぁあ….(走り疲れたな…)」
俺の頭にはまだ、さっきの撫でられた感覚が残っている。
でも、正直の事を言うと、あの時の感覚は気持ち良かった。
もうちょっと触っていられていたかった。
だけど、そんな事がバレたら…. 今みんなから知られている俺じゃなくなる。
だから俺は、こんな遠くまで走ってきた。 何の意味も無いけど….
「(これからどうするか…)」
教室に戻っても、風南は居るだろうし….
かといって、行く所も無い。
「(仕方無いな。教室戻るか….)」
教室に向かって歩き始めた所で、俺は歩みを止めた。
「(このまま教室に行ったら、風南に….)」
“あ、青人くん戻ってきたんだね!!”
って笑われそうな気がする。そんな事を言われるのはもうごめんだ。
そう思っていると、俺は とある事 を思い出した。
「(教室以外の良い所と言えば、あそこしか無い….!!)」
俺は、その場所に早足で向かった。
コメント
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うま!私も早く上達しないと!