テラーノベル
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俺たちは。
暗い通路を進んだ。
足音だけが響く。
コツ。
コツ。
コツ。
壁には古い配線。
錆びた扉。
長い年月。
誰にも使われていなかったように見える。
「病院の地下……?」
美咲が小さく呟く。
「こんな場所があったなんて」
俺も知らなかった。
通路の先に。
一枚の鉄の扉。
プレートには。
**管理室**
そう刻まれていた。
俺はゆっくり扉を押す。
ギィ……
重い音を立てて開く。
部屋の中には。
古い机。
何台ものモニター。
そして。
壁一面に並ぶファイル。
一冊一冊。
背表紙に名前が書かれている。
俺は一冊を手に取る。
そこには。
**海斗**
「……!」
思わず息をのむ。
美咲が駆け寄る。
「海斗って……」
「ああ」
俺はページを開く。
最初のページ。
写真。
年齢。
住所。
家族構成。
そして。
最後のページには。
たった一行。
**『保護対象 処理完了』**
「処理……?」
俺は拳を握る。
「これって」
その時。
スピーカーが鳴った。
『死亡という意味ではない』
俺は顔を上げる。
「誰だ!」
『海斗は』
『組織から切り離された』
「じゃあ」
「生きてるのか!」
沈黙。
数秒後。
『生存は確認されている』
俺は。
その場に座り込んだ。
「……よかった」
美咲も静かに息をつく。
海斗は死んでいなかった。
少なくとも。
今は。
俺はファイルを閉じる。
その隣には。
別の名前。
**神谷蓮**
震える手で開く。
ページはほとんど黒塗りだった。
最後のページだけ。
読める。
**『保護対象 引き継ぎ済』**
「引き継ぎ?」
俺は呟く。
「誰に?」
返事はない。
さらに隣。
俺は。
自分の名前を見つけた。
**神谷悠真**
ファイルを開く。
一ページ目。
空白。
二ページ目。
空白。
三ページ目。
空白。
最後のページだけ。
文字があった。
**『選定中』**
「……選定?」
その瞬間。
部屋の一番奥。
真っ暗だったモニターが一台だけ点いた。
ザーッ。
砂嵐。
やがて。
一人の老人が映る。
白衣を着ている。
「神谷悠真」
老人は俺を見た。
まるで。
画面越しではなく。
目の前にいるようだった。
「君は知るべき時が来た」
「……誰だ」
「私は」
老人はゆっくり答える。
「最初のRを作った人間だ」
俺は息を止める。
「作った?」
「Rは」
「人ではない」
「え?」
「制度だ」
老人は静かに続ける。
「人を選び」
「人を守り」
「人を切り離す」
「そのための制度」
「それがRだ」
俺は理解できなかった。
「じゃあ」
「闇バイトは?」
老人は目を閉じる。
「選ぶための試験だった」
「試験……?」
「極限状態で」
「何を選ぶか」
「誰を守るか」
「誰を見捨てるか」
「それを見るために」
俺は叫ぶ。
「そんな理由で!」
「人の人生を壊したのか!」
老人は悲しそうに首を振る。
「違う」
「壊したのは」
「制度ではない」
「人間だ」
部屋が静まり返る。
その言葉だけが。
重く残った。
老人は最後に一枚の写真を映す。
そこには。
幼い俺。
幼い蓮。
そして。
もう一人の子ども。
今まで黒く塗りつぶされていた顔が。
初めて見えた。
俺は目を見開く。
「……!」
その子どもは。
俺たちによく似ていた。
でも。
名前だけは。
まだ見えない。
画面の下だけが。
ノイズで隠れている。
老人は言った。
「君がその名前を知った時」
「Rは終わる」
その瞬間。
管理室全体の照明が赤く点滅する。
ビーッ!
ビーッ!
警報音が鳴り響く。
美咲が驚いて俺を見る。
「何!?」
スピーカーから機械音声が流れる。
**『管理区画に侵入者を確認』**
**『封鎖を開始します』**
ガシャン!
俺たちの後ろで。
鉄の扉が閉まり始めた。
逃げ道が塞がれていく。
その時。
通路の奥から。
ゆっくりと足音が聞こえた。
コツ……
コツ……
コツ……
誰かが。
こちらへ歩いてくる。
暗闇の向こうから現れた人影。
その人物は。
俺たちの前で立ち止まる。
そして。
静かに口を開いた。
「……悠真」
聞き覚えのある声だった。
俺は震える声で呟く。
「まさか……」
人影が。
一歩前へ出る。
光が顔を照らす。
そこに立っていたのは――
俺が十数年間。
ずっと会いたかった人だった。
(第五十七話へ続く)
コメント
1件
おお、第56話読んだわ……これはめっちゃ重い回やった。 「Rは制度」っていう老人の言葉、ようやく核心が見えてきた気がするけど、同時に「選定中」って悠真のファイルがめっちゃ気になる。しかも最後のあの人物……まさかあの幼い頃のもう一人の子ども本人なん?次の話が待ちきれんわ🔥
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柏木さくら
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