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#狂愛
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「……蓮?」
暗闇から現れた男は。
何も言わなかった。
ただ。
俺を見ていた。
その顔を。
俺は覚えている。
写真の中でしか見たことがなかった顔。
それでも。
分かった。
「兄貴……?」
男は。
ゆっくり頷いた。
「久しぶりだな」
声を聞いた瞬間。
胸の奥が締めつけられた。
「……生きてたのか」
「ああ」
「ずっと?」
「ずっと」
俺は。
一歩近づく。
「じゃあ」
「なんで」
「なんで俺の前から消えたんだよ!」
蓮は答えなかった。
「父さんも」
「母さんも」
「誰も教えてくれなかった」
「俺は」
「兄貴が死んだと思ってた」
蓮は。
少しだけ目を伏せる。
「死んだことにしたんだ」
「……何?」
「俺が生きていると」
「お前が狙われる」
「誰に?」
「Rに」
俺は。
首を振る。
「Rって何なんだよ」
「俺は」
「もう何年も」
「その答えを探してきた」
蓮が。
俺を見る。
「Rは」
「一人の人間じゃない」
「それは聞いた」
「でも」
蓮は続ける。
「それだけじゃない」
管理室のモニターに。
一枚の古い資料が映し出された。
そこには。
大きく一文字。
**R**
その下に。
いくつもの名前が並んでいる。
「これ……」
美咲が呟く。
「何人いるの?」
蓮が答える。
「今までRになった人間だ」
俺は。
名前を追う。
何十人。
いや。
それ以上。
「こんなに……」
「Rは」
「一人じゃなかったんだな」
蓮は首を振る。
「違う」
「Rは一人だ」
「じゃあこの人たちは?」
「役割を受け継いだだけだ」
俺は。
前に聞いた言葉を思い出す。
**『Rは名前じゃない』**
**『役割だ』**
ようやく。
その意味が分かり始めた。
「じゃあ」
俺は蓮を見る。
「兄貴も」
「Rだった?」
「……一度だけ」
「一度?」
蓮は。
静かに頷く。
「俺がRになったのは」
「お前を守るためだった」
「でも」
「俺には無理だった」
「何が?」
「人を選ぶことが」
俺は黙った。
蓮は続ける。
「Rは」
「必ず誰かを選ばなきゃいけない」
「助ける人間」
「切り離す人間」
「その選択を」
「何度も繰り返す」
俺は。
闇バイトの参加者たちを思い出す。
海斗。
消えていった人たち。
「……それで」
「兄貴は辞めたのか」
「ああ」
「でも」
蓮は俺を見る。
「辞めるだけじゃ」
「終わらなかった」
「だから消えた」
「俺を守るために?」
「そうだ」
俺は。
拳を握る。
「じゃあ」
「今まで俺に近づいてきたRは」
蓮は。
少し黙った。
「俺じゃない」
「……え?」
「お前にメッセージを送っていたRは」
「俺ではない」
俺の背中に。
冷たいものが走る。
「じゃあ」
「誰なんだよ」
蓮は。
管理室のモニターを見る。
画面には。
俺の名前。
そして。
その下に。
もう一つの名前。
今まで黒く塗りつぶされていた名前。
少しずつ。
黒い部分が消えていく。
俺は。
息を止めた。
「……これ」
美咲が画面を見る。
名前が。
表示される。
**神谷凛**
「凛……?」
蓮が。
静かに言う。
「それが」
「三人目の名前だ」
俺は。
画面を見つめる。
「神谷凛」
聞いたことがない。
それなのに。
なぜか。
胸の奥がざわつく。
「凛は」
「どこにいる?」
蓮は。
俺を見る。
「もう」
「会ってる」
「……誰と?」
蓮は。
俺の隣を見る。
美咲。
美咲が。
驚いた顔をする。
「私?」
「違う」
蓮は首を振る。
「でも」
「お前は凛を知ってる」
「どういう意味?」
その瞬間。
管理室のスピーカーが鳴った。
『正解』
俺たちは。
一斉に振り返る。
聞き覚えのある声。
R。
『神谷凛』
『その名前を知るために』
『ここまで来たんだね』
蓮が。
険しい顔をする。
「お前は」
「もう終わりだ」
『終わる?』
Rが笑う。
『まだ何も始まっていない』
画面が切り替わる。
そこに。
一人の女性が映った。
俺は。
息を止める。
「……母さん?」
画面の中の母さんは。
俺を見ていた。
そして。
口を動かす。
音声はない。
でも。
何を言っているのか。
分かった。
**「悠真、逃げて」**
その瞬間。
画面が消える。
蓮が叫ぶ。
「走れ!」
「え?」
「今すぐ!」
警報音が。
さらに大きくなる。
管理室の扉が。
一つ。
また一つ。
ロックされていく。
俺たちは。
通路へ飛び出した。
後ろから。
誰かが走ってくる音がする。
「蓮!」
俺が叫ぶ。
「何だ!」
「凛って誰なんだ!」
蓮は。
走りながら答える。
「それを知るには」
「もう一つだけ」
「過去に戻る必要がある!」
「どこへ!」
蓮が振り返る。
「俺たちが生まれた日」
「204号室だ!」
俺は。
足を止めそうになる。
でも。
蓮が叫ぶ。
「走れ!」
俺たちは。
暗い通路を走った。
その先に。
非常階段。
上へ。
上へ。
そして。
地上へ出る。
夜の病院。
冷たい風が吹いている。
俺は。
息を切らしながら。
蓮を見る。
何年も探していた兄。
ようやく。
目の前にいる。
でも。
まだ。
一つだけ分からない。
神谷凛。
俺たち三人目の兄弟。
そして。
俺にメッセージを送り続けていたR。
二つの謎が。
まだ残っている。
蓮が。
静かに言った。
「悠真」
「何?」
「凛は」
「お前が思っているような存在じゃない」
俺は。
その言葉の意味を理解できなかった。
「じゃあ」
「何なんだよ」
蓮は。
病院の204号室を見上げる。
「それを知ったら」
「お前は」
「今までの全部を」
「疑うことになる」
俺は。
204号室を見る。
そして。
思った。
俺が生まれた日。
俺の名前が書かれていた部屋。
蓮が消えた部屋。
そして。
三人目の名前が隠されていた場所。
真実は。
もう。
すぐそこまで来ている。
(第五十八話へ続く)
コメント
1件
うわあああ第57話……!蓮が生きてたの、本当に良かった……でも「死んだことにした」って、その重みがずしんと来たよ。それに神谷凛って名前、まさか美咲じゃなくて「もう会ってる」って意味深すぎるし、母さんが「逃げて」って言った瞬間、背筋が凍った……。204号室、三人目の名前、Rの正体。もう全部が繋がりそうで繋がらないもどかしさがたまらない。続きが気になって仕方ないよ😭💔