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鷹槻れん

53,239
篠原愛紀
821
王都が真っ白な雪に覆われ、街中が魔法のイルミネーションできらめくクリスマス。王宮の大広間では、年に一度の盛大なクリスマス晩餐会が催されていた。
新入生として大きな成果を残し続けたステラは、今夜も完璧な淑女として、多くの貴族たちからの挨拶を優雅に受け流していた。
今夜のドレスは、聖夜の雪を思わせる純白のシルク。そんな彼女を、少し離れた壁際から見守る影があった。
「お疲れ様、ステラ。相変わらず見事な社交ぶりだな」
眼鏡のブリッジを押し上げながら声をかけてきたのは、実兄のシエルだった。
シエルもまた、完璧に仕立てられた夜会服を纏い、ジョシュアの筆頭補佐官としての風格を漂わせている。
「お兄様。……ふう、ありがとうございます。ジョシュア様はまだ国王陛下とお話し中ですか?」
「ああ。だが間もなくこちらへ戻られる。……お前たち、また何か企んでいるな? 二人でこそこそと、互いの瞳の色の宝石を探させていたという情報が、私の耳に入っているのだが」
シエルがジト目で妹を見つめると、ステラはポッと頬を染めて、持っていた扇で口元を隠した。
さすがは有能な補佐官、二人の秘密の準備は筒抜けだったようだ。
「もう、シエルったら、何でもお見通しなんですのね。……でも、お兄様。私たちがプレゼントを用意したのは、お互いだけではありませんわ」
「……何?」
シエルが怪訝そうに眉をひそめたその時、背後から低く心地よい声が響いた。
「待たせてしまったね、ステラ。――それに、シエルも」
人混みを割って現れたのは、夜空の髪にサファイアの瞳を持つ、圧倒的な存在感を放つ皇太子ジョシュアだった。
彼はステラの隣に立つと、ごく自然にその腰を引き寄せ、シエルに向かって悪戯っぽく微笑んだ。
「殿下、夜会中ですので節度をお守りください。……それと、先ほどのステラの言葉はどういう意味ですか?」
普段は冷静沈着なシエルが少し戸惑う様子を見て、ジョシュアとステラは顔を見合わせ、楽しそうに微笑んだ。
ジョシュアが懐から、最高級のベルベットで包まれた小さな箱を取り出す。
「いつも僕の右腕として、そしてステラの良き兄として、誰よりも僕たちを支えてくれている君へ。二人からの感謝の印だ。受け取ってくれ」
手渡された箱をシエルがそっと開けると、そこには、アストリア家の紋章が精巧に刻印された、特製の最高級万年筆が収められていた。
それも、ジョシュアの瞳と同じ「サファイア」と、アストリア兄妹の瞳と同じ「エメラルド」の小粒な宝石が、美しく並んで埋め込まれている。
「これは……」
「お兄様が毎日、私たちのためにたくさんのお仕事をしてくださっているから、ジョシュア様と相談して作っていただいたのです。いつも本当に、ありがとうございます、シエル」
ステラが心からの尊敬と感謝を込めて微笑むと、シエルは一瞬だけ呆然としたものの、すぐに愛おしそうに目を細め、胸のポケットにそれを大切に仕舞った。
「……やれやれ。主君と実の妹にこれほどの手回しをされては、補佐官としてこれ以上の仕事で返すしかありませんね。ありがたく、生涯の宝物とさせていただきます」
シエルは完璧な一礼で感謝を示したあと、「では、私は他国の使節の様子を見てきます。二人でごゆっくり」と、機転を利かせてその場を去っていった。
過保護な兄だが、二人の時間を作ってあげる優しさは忘れない。
「さて、僕たちの時間だね、ステラ」
二人きりになると、ジョシュアのサファイアブルーの瞳に、ステラへの甘い熱が灯った。
周囲の目を盗み、二人は大広間から続く静かなバルコニーへと滑り込む。
ひんやりとした冬の夜風が、ステラの火照った頬を心地よく冷ます。
夜空からは、祝福のようにはらはらと粉雪が舞い降りていた。
「ステラ。僕からのクリスマスプレゼントだ。僕のこの瞳で、君の全てを捉え、一生離さないという誓いを込めて」
ジョシュアが取り出したのは、白金のチェーンに、大粒の極上のサファイアが輝くネックレスだった。
聖夜の光を浴びて、それはジョシュアの瞳と全く同じ、気高く深い夜空の色を放っている。
ステラは、差し出された美しい青い輝きを見つめ、じわりと胸の奥が熱くなるのを感じた。
彼がどれほど自分を深く愛し、独占したいと思ってくれているか、その重みが宝石を通じて真っ直ぐに伝わってきたからだ。
ステラはネックレスをそっと両手で包み込み、潤んだエメラルドの瞳でジョシュアを見上げた。
「……なんて、美しいのでしょう。胸が、いっぱいでございます……。ありがとうございます、ジョシュア様。私をあなたの色で染めてくださるのなら……私からも、私の全てであなたを縛るお許しをいただけますか? どうか、これをお受け取りくださいませ」
感動に声を少し震わせながらも、ステラは愛おしそうに微笑み、大切に持っていた小さな箱を差し出した。
中に入っていたのは、細やかな透かし彫りが施された、眩いエメラルドのタイピン。ステラの冷徹で美しい瞳と同じ、瑞々しい若葉の色をしていた。
「君のエメラルドだね。……最高だ、ステラ。明日からの公務には、必ずこれを胸元に飾ろう。これで世界中の誰もが、僕が君のものだと知ることになる」
ジョシュアは嬉しそうにサファイアの瞳を細めると、さっそくタイピンを胸元に飾った。
そして、ステラの前に膝をつくようにして、彼女の首元に優しくサファイアのネックレスをかけた。
純白のドレスの上で、ジョシュアの瞳の色が、まるで彼の刻印のように美しく主張する。
「よく似合っている。これで君は、指先から髪の毛一本に至るまで、僕だけのものだ」
ジョシュアは立ち上がると、ステラの華奢な身体をそっと抱きしめ、その額に、そして愛おしそうに唇へと、聖夜の粉雪よりも優しいキスを落とした。
「ジョシュア様……。私も、あなたのサファイアを胸に、一生あなただけを見つめ続けますわ」
お互いがお互いの瞳の色を身に纏い、深い独占欲と愛で満たされながら、二人は甘く温かな聖夜の奇跡に包まれるのだった。
コメント
1件
うわあああ第7話も尊すぎる……!😭💕💕 クリスマス晩餐会の華やかな空気感から一転、シエル兄様へのサプライズプレゼントでじんわり来たと思ったら、バルコニーでの交換プレゼントがもう…お互いの瞳の色を身に着けるとか反則でしょ!? ジョシュア様の「世界中の誰もが僕が君のものだと知ることになる」とか台詞の破壊力ヤバすぎて叫んだわ🫠✨ しかもシエル兄様が気を利かせて二人きりの時間を作ってあげる優しさもズルい…。今回、兄妹の絆と恋人同士の愛が同時に輝いてて、胸がぎゅうぎゅうになったよ…。続きが待ちきれない!!🌸