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「はぁっ………勝った……」


電光掲示板を見る。

タイムは……2:01.3か…遅いな。

レコードまでは届かないな。やっぱり。

そうだ、皐月賞のルドルフさんみたいに────


───ワアァァァ!!!


「………………!!」


僕が観客の方を向いた。ただそれだけなのに。

大きな歓声が僕を包み込んだ。


「すげーじゃん!ユリノテイオーだっけ?」

「次はダービー?頑張って!!」

「ワープしたみたいだったよ!!」


そんな声が聞こえる。

そうか、勝つって、こんなに気持ちいいんだ……!


僕は胸を張って、手で1を作って挙げた。

その瞬間、更に大きな歓声が沸いた。


「───ユリノテイオー」


後ろから僕を呼ぶ声が聞こえた。

コールドブラデッド………。


………………あっ…!

目標………!


「今回はアンタに負けたけ────」

「友達になろう……!」

「…………は?」


僕がそう言うと、コールドブラデッドは呆けた顔をして僕を見つめた。

何かおかしな事言ったっけ。


「友達になろ…………!!」

「……………はぁ…」


コールドブラデッドは一つ溜息をついた。

やれやれと言う顔で言った。


「なんでよ………いいけどさ……」

「いいの…!?」

「うん。そんなキラキラした目で見つめられたら、断るにも断れないじゃん………」

「やった………!」


コールドブラデッドは僕を見ながら言う。

普段人付き合いは苦手だけど、コールドブラデッドなら信用できそうな気がしたから。

僕の目標の一つが埋まった。結構嬉しい……。


(兄さん、僕に友達が出来ました……!)




アタシは、昔から甘やかされて育った。

母さんは人間だった。突然変異でアタシはウマ娘として生まれた。

母さんはそれを喜んだ。ウマ娘は基本的に美少女達の集まりだ。可愛い女の子が生まれてくることを望んだのだろう。

それに、アタシは生まれつき金髪だった。母さんには好都合だらけだ。


母さんは、アタシを着せ替え人形みたいに扱った。


小さな頃から髪を伸ばして。髪はお上品な姫カット。

裕福な家庭に生まれたから、少々高くても可愛い服を買ってはアタシに着させた。

ヒラヒラしたレースのついた、いわゆるロリータ服。

母さんは、決まって言った。

『可愛いわねぇ、コールちゃんはなんでも似合うわねぇ』。

その声を聞いただけで吐き気がした。


小学校では毎日浮いていた。普通の小学校だった。

ヒラヒラで可愛い服。小一の頃は女子がみんな寄ってきた。高学年の時はさすがに引かれたけど。『可愛いね!』『私もこんな服欲しいなぁ』って。

アタシはウマ娘だから、羨ましがる子もいた。足が遅い子とか。男子も寄ってきた。足が速くなりたいんだろうな。だから、『走ってみて!』って言われた。

アタシは困惑した。走ったことがないから。


母さんは、一切の運動を禁止した。


体を動かすのは歩いたりする時だけ。体育の授業は毎回見学。ウマ娘なのに。

だから、せめて走ってみたい。テレビで見る“競走ウマ娘”みたいに、ターフを思いっきり走りたい。そう思った。

母さんには内緒で、キラキラした可愛い部屋のテレビで、毎週の日曜日にレースを見た。母さんはきっと見ることも許してくれない。小さいながらに察していた。

だから、一人で、自分の部屋にある大きなテレビで、音を消して、お母さんにバレないようにこっそりと。


でも、そんな楽しみも直ぐになくなった。


その日は菊花賞だった。一人の三冠ウマ娘が誕生しようとした歴史的な回。その回が楽しみだった。ずっと待ってた。

さぁ、もうちょっとだ。あと少しでレースが始まる。

全員がゲートインして、スタートの瞬間。母さんが後ろのドアから入ってきた。

『今日は高級なショートケーキを買ってきたの。一緒に食べましょ!』

母さんはニコニコしながら入ってきた。甘いのは嫌いなのに。

でもテレビを見ると、笑顔を消して、ケーキの入った高級そうな箱を落とした。

中から二つのショートケーキが出てきて、グシャッと潰れた。

母さんは手を震わせると、アタシにつかみかかってきた。

それで、狂ったかのように部屋を荒らした。

叫びながら。アタシも殴られた。

それがトラウマだ。アタシは人間が嫌い。

信用できるやつもいる。トレーナーとか、教官とか。

だから友達なんかも作らなかった。でも───


「コールドブラデッド、行くぞ」


───目の前の、なんとなく気に食わないやつが。


「…………どこに?」


こんな、バカみたいな顔した白毛のウマ娘が。


「病院。兄さんのお見舞い。コールドブラデッドという友達もできたから」


人生初の友達なんだなって、思ったら。


「………はいはい」


なんか、バカらしい。

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