この作品はいかがでしたか?
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あぁ……。
「この夜の粉雪は懐かしい………」
雪が輝く聖夜の空、街中は人々に溢れ街そのものがまるで喜びをこぼしてるかのような賑わいを見せる。
その空の上で、二人の人影が映し出される。しかし、その姿は見えていない。正確に言うとすれば、気にもとめないが正しいだろうか。
彼らの目に映るは星の輝く夜空と、月に街中の電飾によって照らされた雪の景色それだけなのだから。
二人の人影のうち一人の少女は思案する。
私が彼を想うほど私に触れる雪は、冷たさを増す。
私と彼が結ばれることも無く、そして私は怪異として恐れられ退治される。
その少女は体の至る所が赤く滲んでおり、怪我をしていた。
もう一人の少女はそんな彼女を見て悲しい顔をしていた。まるで今起きている事象に納得の言っているものでは無いかのごとく……
血が滲み体が上手く動かせなくなっているにも関わらず、その少女はあるひとつの事を思い浮かべていた。
「私の願いはただ一つ。たった一つのシンプルなもの…もう一度彼に会い、ただ日常的な会話をしたかった。」
私と彼の出会いは遡ること数年前。当時の私は彼の事をなんとも思ってなかった。ただの人間。それ以上でも、それ以下でもない。そんな存在。
関係値で言えば他人だし、話すきっかけも単純な私の暇つぶし相手、それまでだった。
粉雪降る寒空の日の夜のこと。公園にある木製のベンチに腰掛ける一人の男性がいた。少し黄色がかった街灯に照らされた彼の容姿は、茶色のコートを羽織い中にはスーツを着ており、いわゆるサラリーマンと言われる風貌である。
この時の時刻は詳しくは覚えていないけど、少なくとも同じサラリーマンと言われる人々は帰宅してる頃合いだったと思う。
そんな時間だと言うのに彼はベンチに腰かけ、茶色のコートを雪で少し白く彩るほどになるまで項垂れていたのだ。
その姿を空から見た私は何の気なしに彼の元に行き少し話しかけてみた。
「おじさん元気ないね?」
突然の声掛けに丸くなっていた背中がシャキッと伸び、私の姿を見るなり少し驚いていた、がすぐに冷静になり私に問う「君は?」その問いに対し私は正直に「あたしは、氷の妖精だよ」と元気よく返す。
それを聞いた時はあまり信じれないと言った様子だったが、私の姿を再度確認するなり納得し普通に会話を始める。「そうか。君は氷の妖精さんなのか」
「信じてくれるのー?」無邪気に私は返事をする。「そりゃ信じるさ。突然空から降りてくるし、氷の羽を携えてる。何より、こんな時間に君のような幼い子は見ないからね」彼の言うとおり私は身なりが幼いけれど、年齢的な話をすれば大人ではある。
私は妖精で彼は人間。人はせいぜい100年ちょっとしか生きれないが、妖精は老いることは無い。概念のようなものに近しいため歳を重ねるということは無い。だが、人と同じように”歳”を数えるとなると数百数千年という歳月を生きている。
「それでおじさんはここで何してるの?」純粋な疑問を彼に伝える。「私は少し反省というか悩んでいるというか…」その答え方は少し違和感がある。
どことなくその事を聞いて欲しくないような、そんな雰囲気を感じれた。
「ふぅーん……」あまり詮索するのは良くないと思い適当に話を切り上げようかと思った矢先、彼はその口を重々しく開く。「実は今日私の部下がちょっとしたミスをしてね、そのミス自体は別に大きなものでは無いのだが、ミスを咎める輩がいてね。」
よくある話だろう。これだけ長く生きていれば私も似たような話を聞いたり、空からその現場を目撃することなんかも見られる。
「もちろん仕事上ミスをした部下を叱るのは上司である私の役目ではある。私を除く他の人たちも同じではあるが、その中に一人少し論点がズレてる者がいてな。」
「それは、ミスをした部下の上司…すなわち私なのだが、彼のミスは私にも責任があるとの事。確かにそれはその通りではある。私の教育が行き届いていないから起きた事。そうかもしれないが…」
「今話すべきことは彼のミスをどうリカバーし、今後似たようなミスをしないよう話し合う必要があるということだ」
「仮に私の教育が行き届いていないとして、それは私側にも片付けなければならない仕事が山ほどある。そんな中、合間をみつけ何とか育成していた…」
何となく話を聞いていて見えてきた悩み。
彼の部下のミスは上司である彼にも責任がある。しかし、そもそもそんなミスを起こさせないために教育をしっかりしとけば良かったという話を他者がしていたのだが、彼の意見はそうしたいのも山々だが、自分の仕事と彼の育成という両立をするには明らかに自分の仕事量が大きく、また、明らかに自分以外の人物は彼の育成に関わることをしていないということ。要は、責任を負いたくない人達が沢山いたそれだけ。
「とってもたいへんなことがあったんだね〜」
「まぁ、君に話してもよく分からないよね」
「そうだね〜。私は詳しくはわからないよ?でも、やっぱりそんな風に思い詰めてる時って、誰でもいいから話は聞いて欲しい時あるよね。」
「そうかもしれないな」
そう返事をすると彼は少し笑みを零した。先程までの思い詰めていたような顔つきはなくなり、どこか安堵してるような、そんなふうに受け取れた。
それから私と彼はしばらくたわいのない話をしてその時を過ごす。
「そろそろ私は帰ることにするよ」
「もうおじさん帰っちゃうの?」
「君のおかげでだいぶ気も紛れたしね」
「それじゃあバイバイだね」
「そうだね」
腰掛けていたベンチから腰を上げ、カバンを持ちその公園を後にする。少し歩を進めた後振り向きこちらを見て一言私に言い放った。「また会えるかな?」
それに対し私は様々な回答が浮かんだが、その中から選んだ言葉は「また雪の降る季節になったらね。だってあたしは氷の妖精だから」という言葉だった。
無意識のうちにその言葉を発してる時には笑みを零して、彼に向かい手を振っていた。その姿を見た彼も私に向かい軽く手を振って、粉雪振り続ける街中にと消えていった。
これが、私と彼の初めての出会い。
コメント
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文良きかな…妖精ちゃんも可愛くて良きかな……サラリーマンのにっちゃんも親近感湧いて良きかな……つまり全てが良きかな…(語彙力の欠如)