〜第1幕〜ー積み重なる違和感ー
突然だけど、君は自信を持って「親友」って呼べる友達はいる?いるよーって人もいれば、いないって人もいるよね。でもそれ…実際は君しかそう思ってなくて、向こうは君のことなんて「親友」として認知してないかもよ。…急に脅すようなこと言っちゃったね。どう?不安になった?「そんなわけないじゃん!」って、俺に対して怒りを覚えた?それとも何も感じない?でも君も、とある話を聞いたらきっと…背筋が凍るような感覚が走ると思うんだ。ちょっとだけ俺に時間を頂戴。その話をさせて。…じゃあ早速…って、名乗ってなかったね。俺、藤澤涼架。よろしく。これは、俺が記者やってたときの話なんだけど…。
とある事件を追ってたんだ。上に「これ解決すれば大手柄だぞ」って急かされてたなぁ笑 どんな事件かって言うとね、国内外で活躍してた小説家、若井滉斗が突然行方をくらましたの。そりゃあもう世間は大騒ぎで。どこにいるんだーだの、早く見つけてーだの…。でもその数日後にね、他の誰でもない若井滉斗本人が、SNSでこんな動画を投稿したんだ。
「どうも。小説家の若井滉斗です。今回の私の失踪の件についてですが、全て自分の意思で計画・実行したものです。誘拐などでは決してなく、第三者とは全く関係がありません。少しの間、外界から身を遠ざけたかったんです。なので皆さま、ご心配なく。探索等も結構です。よろしくお願いいたします。以上です。」
ただ単に、自分の想定よりも騒ぎが大きくなっちゃったから義務的に撮った報告動画なんだろうね。すっごい淡々と喋ってる。そりゃそうだよね。外界から身を遠ざけたくて失踪したのにわざわざネットに触れてるんだから。
1記者の俺なんかからしたら、素直に「じゃあもうほっとこうよ…」って感じだったんだけど、これまた上の人たちが懲りずに取材続けろって言うから、仕方なく取材続けたわけ。本人が「探索等も結構です」って言ってんのにね。で、とりま若井滉斗さんの近辺当たるかーって思って、編集者さんとか近くのスタッフさんに話聞いて回ったの。不審な行動なかったですか〜とか。でも目ぼしい情報はなーんも出てこなかった。
ゲットしたのは、「若井滉斗の担当編集者:大森元貴は若井滉斗の幼馴染である」っていうことと、「若井滉斗は執筆の際、大森元貴以外に相談することがほとんどなかった」ってことだけ。まじしょぼいよね。その「大森元貴」について他のスタッフさんに聞くと、みんな「すごい優しい方です」とか、「The 完璧!って感じの人ですかね〜」って口を揃えて言うんだ。不思議なことに、言い回しまでぜーんぶ一緒。まあきっと、そんぐらいすごい人格者なんだろうな…
で、新しく得た情報をもとにまた取材するってなるとやっぱり、「大森元貴」にコンタクト取るしかないよね。どっちにも「大森元貴」の名が出てくるんだもん。ってことで俺は、大森元貴のもとを訪ねた。
「すみません、大森元貴さんですか?」
「はい、そうですが…」
ピシッとスーツを着こなした彼はとても物腰が柔らかで、俺の突然の訪問にも快く対応してくれた。話で聞いていた通りすごく良い方みたい。「用意周到」の擬人化?ってレベルでしっかりしてる。
「すみませんね…若井の件で色々ご心配やご迷惑おかけしちゃってるみたいで…」
「いえいえ。こちらこそ本人があんな動画出してるのに詮索しちゃってすみません…」
俺がそう言うと、彼の口角が少し上がった気がしたんだ。でも彼は元から愛想よくて微笑んでくれてたから気のせいかなって思って、何も言わなかった。
失踪する直前の若井滉斗の様子やもともとの性格、2人の具体的な関係性などを聞いても嫌そうな顔一つせず、事細かに教えてくれた。
「若井が失踪する直前ですか?そうですね…そんなにいつもと変わらない感じではありましたが、若干元気がなかったかもしれません。普段から大人しいので分かりづらいんですけどね笑」
「他のスタッフさんから聞かれたかもしれないんですが、僕と若井は幼馴染であり親友なんです。実家も近くて、ほぼ双子みたいな笑 あいつ、昔から物静かだし、自分の意見をはっきり言えないタイプなんです。優柔不断だしね。今でも小説書くとき、僕以外には全然相談しないみたいで…ちゃんといつも言ってるんですよ?『親友だからって僕ばっかに頼る癖やめたほうが良いよ〜?』って。でも無理みたいです笑 あいつらしいっちゃあいつらしいんですけどね。」
流石「幼馴染」「親友」というだけあって、大森元貴は若井滉斗のことを知り尽くしているみたい。でもまだ、一番肝心なところを聞けていない。
「なるほど…本当に仲良しなんですね。羨ましいなぁ…笑」
「あと最後にもう一つよろしいですか?今、若井滉斗さんがどこにいるのかご存知で?」
「いやぁそれが…僕も知らないんですよ。候補はいくつかあるんですけど…彼、前日まで普通に仕事してたのに、急にいなくなっちゃって。それから連絡つかないし…僕も、表では平静を装ってるけどやっぱりすごく心配で…あいつ、今どこで何してるんだろう…僕が今まで通りちゃんと声かけてあげられてたら、こんなことにはならなかったのかもしれないですね…」
…ん?
このとき、初めて大森元貴の言動に違和感を覚えた。なんていうんだろ、「記者のカン」みたいなやつ。自分でも上手く言い表せないんだけど、どこかつっかかったんだよね。
だから家に帰ってもう1回、若井滉斗が上げた動画を見返したの。そしたら1回目に見たときには何も思わなかったのに、なんだかおかしい気がしたんだ。「自分の意思」って言ってる割には抑揚のない話し方なんだよね。そんなのただの俺の主観なんだけどさ。それに、たまにだけどカメラ目線じゃない気がするんだよ。ニュースのアナウンサーがカンペを見るときみたいな感じで。まるで、目線の先に何かがあるみたいだった。…これってさ、本当に偶然かな?
大森元貴にフォーカスを当てた俺は、取材の方向性を変えた。若井滉斗じゃなくて大森元貴の周辺を洗うことにしたんだ。でも、調べれば調べるほど、俺の睨みとは真逆のことばかり分かってくる。
大森元貴の小学校や中学校の同級生に話を聞けば、みんながみんな口を揃えて「とってもいい子でしたよ」「頼りがいのある子でした」と言う。スタッフさんの時と一緒だ。一言一句変わらずにみんな同じ感想を述べる。まるで台本があるみたいに。冷静に考えれば有り得ない状況じゃない?でもそれが起きてるんだよ。…臭う。
さらに取材を続けた。
だんだんと大森元貴の人物像が分かってきた。簡潔に表せば、「不気味なくらいに完璧な人間」。気遣いができ、リーダーシップもあり、仕事は光のごとく早い。明らかにできすぎている。でもそれに違和感を唱える人はいない。みんな、あの性格に納得しちゃってるんだろうね。…いや、「納得させられている」のかもしれないけれど。
そして、俺が最初に違和感を覚えたセリフ。
「〜〜〜〜〜僕が今まで通りちゃんと声かけてあげられてたら、こんなことにはならなかったのかもしれないですね…」
一見すれば、「親友」として若井滉斗の変化にいち早く気づき、彼の失踪、という一種の「暴走」を防ぐことができずに悔やんでいるだけだ。でもさ、これ。まるで自分が若井滉斗の行動を選択・制御できる、みたいに聞こえない?それに彼、大森元貴は、若井滉斗だけでなく自分自身のプライベートに関わることまで包み隠さず教えてくれた。いや、「教えてくれたように見えた」。記者の取材なんて、「企業秘密なので」の一言で退けられる。そのレベルの強制力。じゃあなぜ彼はあんなにも協力的だったのか…。俺は、「話した内容が全て嘘だから」だと思ったの。彼は、若井滉斗に異常なまでの信頼を置いているように見えた。にわかには信じがたいほどの。
…全て、繋がった。
___大森元貴が「クロ」だ。
コメント
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わぁぁぁぁ!!!お久しぶりですーーー!!!復活作にピッタリ...いやそれ以上の傑作が生み出されようとしている...‼️うんやばい。めっちゃおもろい。「...ん?」のところからほんとに鳥肌立ったし読みやすいし💙さんんんー!もしかしたら彼は今...続きがめっちゃ気になります‼️大好きほんとに。こういうのまじで大好き