テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
麗太
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
──しばらく経ち、辰夫の傷が落ち着いた頃。
私たちは奈落の底を抜け出すべく、真剣に作戦を練り始めた。
「この奈落の底を抜けるには……魔神族と、さっきの気配のヤツ? 魔神王? と戦わなければならないってことよね」
「可能性は高いですな……」
辰夫が神妙な顔で頷く。
「はい、無理! 撤退よ!」
私は親指をグッ! と立てて、笑顔をぱぁ! とさわやかに決めた。
「さわやか! ……まぁ、正面からぶつかるのは得策ではありません。特に今の我では……」
「何とか奴らに見つからないように抜け出して、私の魔王軍で一掃したいな。私は高みから見物したい。高笑いでフルーツ食べながら」
「……」
私は鋭い瞳で前方を睨みつけながら、苛立ちを抑えきれず、ポテチ感覚で傍らの小石を拾ってパリポリと食べ始めた。
「魔神族……私をこんな目に合わせやがって……」
カリッ。
「絶対に許さん……封印? 生ぬるいわ……」
ボリッ。
「この世から存在を抹消してやる……」
イライライラ……と爪も噛む。
辰夫は私の静かな怒りに背筋が冷える思いをしながら、
顔を引きつらせた。
「……その石、美味しいんですか?
と言うか、なんで石を食べられるんですか?」
「知らん! 怒りで味がわからん!」
「わからんのに食べてるんですか!?」
「レベルが上がったら胃袋のレベルも上がったんだよ……」
「どんどん謎の生物になってる……?」
辰夫が戦慄しているのが分かる。
「糸の活用法は、前世のアメリカってところに糸を武器にするスーパーヒーローが居たから、それを参考に出来るんだよね」
「前世ってどんな世界だったんですか……」
「だから、魔神族を倒すにはやっぱり連携技を鍛える必要があるな」
私が真剣にそう言うと、辰夫の表情がサッと曇った。
「嫌です」
私は辰夫の拒絶を完全スルーして、地面に木の枝で作戦図を書き始めた。
「まず、『辰夫スイング』ね。お前の尻尾に糸を巻いて、振り回して敵を一掃する」
「ほら予想通り! この人は我を困らせることにかけては天才ですか!」
「待って! 黙って! 閃いた!」
「……え?」
「……スイング中に、辰夫がブレスを吐く……?」
「……?」
「これ……『辰夫スイング・スパイラル』の完成よ」
私は自分の才能に震え声で言った。
「話聞けよ!」
「次、『辰夫スリングショット』ね。糸で巨大パチンコを作り、お前を射出する」
「相変わらず人の話聞かないな! 糸を使いたいだけでしょう! 辰夫ロケットとの違いが分かりません! なんなら辰夫ロケットのが精度高いまでありますぞ!」
「最後は、『辰夫ロケット☆ジャイロ』だ。私が右肩壊しても、左肩で投げてやるからな?」
私はさらに重々しく続ける。
「すんごい無視してくる!? 我はここに居ますが見えてますか!?」
「横回転を加えて命中率と貫通力を上げる究極技だ」
「究極死ぬ!」
私は洞窟の天井を見上げ、どこか遠い目をした。
「天国のおとさんも喜ぶよ?」
辰夫は混乱のあまり絶叫した。
「その『おとさん』って誰ですか……!?」
洞窟に、辰夫の悲痛な叫びが虚しく響き渡った──。
その時だった。
ザザザザザ──!
岩の擦れる音と共に、私たちの前に一体の魔神族が現れた。
先ほど感じた魔神王の瘴気とは比べ物にならない。
だが、それでも禍々しい下級の偵察兵だ。
黒い鎧に身を包み、赤い瞳を光らせながら巨大な斧を振りかざしている。
「奈落の底に迷い込んだネズミが二匹……」
その低い声が洞窟に響く。
「我らが王の復活を前に、良い生贄となってもらおう」
魔神族が地面を踏みしめるたびに、小石が跳ねる。
重低音が石壁に反響し、まるで地鳴りのように私たちの身体を震わせた。
赤い瞳が私たちを値踏みするように見据え、背筋に冷たい汗が流れる。
「辰夫、来るぞ!」
「仕方ありませんな」
私と辰夫は戦闘体制をとった。
ピキィィィ……ッ!!
(──そうだ、この前、運転免許証の更新に行ったんだ。
新しい免許証を受け取って、写真を見た時……アレ、完全に指名手配犯だったよな……?)
【スキル:《怪力》── 免許証の写真写りが前科者だったモード】発動!!(筋力+500%)
《天の声 : 説明しよう。免許証の更新後、自分の写真を見た瞬間、その凶悪な写りに愕然とする。怒り、絶望、そして哀しみが爆発的に筋力に変換される。5年間この写真だという重みが、サクラの力を引き出すのだ。アホくさ。》
瞬間、私の全身に力がみなぎる。
筋肉が膨れ上がり、血管が浮き出た。
「誰だよこの前科者顔ォォォォォォ!!
5年だぞ……5年ずっと鬱確定だとぉおおおおお!!」
「ええ!?」
殺気立った私のオーラに、敵ではなく辰夫がビクッとする。
「辰夫! 私が行く! 怪我人は後ろから援護しろ!」
「は、はい!」
「小癪なッ!」
魔神族が巨大な斧を振り下ろす。
風を切る音がヒュオオオオンと響き、斧の軌道上に火花が散った。
私は左に跳び、辰夫は右に転がって躱す。
ガッシャアアアン! と斧が地面に叩きつけられ、爆音と共に岩盤が砕け散った。
「その斧、うるせーな! 武器は卑怯ですよっと!」
私は魔神族に向かって一直線に駆け出しながら、糸を吐き出した。
\\ ピュッピュッピュッ //
素早く巻きついた糸が、魔神族の首と斧をガッチリと固定する。
「何だこれは!? 糸か!?」
「糸じゃねーよ! 犠牲にした女子力だよッ!!」
【スキル:《鉱物化》── ダイヤモンド】発動!!
「新スキルの試し撃ちだ! 喰らっとけ!」
私が拳を固め、力を込めた瞬間──右腕全体が、透明なダイヤモンドのように硬く、まばゆく輝き始めた。
ガシャアアアン!!
拳は魔神族の厚い黒鎧を紙のように突き破り、粉々に砕いた。
「ぐわぁぁぁぁ!!」
魔神族が驚愕し、大きくよろめく。
衝撃波が洞窟全体に響き渡り、天井から細かい石が雨のように降り注いだ。
「へぇ? これがダイヤモンドの硬さ? 気に入ったわ」
「ぐおおお……まさかこの小娘が……!」
赤い瞳を見開いて後退する魔神族。
その隙に、辰夫が後ろから飛び上がり、口を大きく開いた。
「喰らえ魔神!!『黒炎』!!!」
ゴオオオオオオオオ!
辰夫の口から黒い炎のブレスが噴射される。
炎が魔神族の背中を直撃し、黒い鎧が赤熱化していく。
「ぐわあああああああ!」
魔神族の悲鳴が洞窟に木霊した。
「あらー!! なんか苦しそうだし? 楽にしてあげるよ?」
私はにっこりと笑い、苦悶する魔神族にさらに糸を巻きつけ、両手足の動きを完全に封じた。
「受け身をとれないようにしたよ? 気をつけてね☆」
私は満足気な笑顔を浮かべた。
「ぃよいしょっ!」
そして、魔神族の片足をガッチリと掴む!
そのまま全身をねじり、私自身の身体を竜巻のように回転させながら、勢いを最大まで溜め込んで倒れ込む!
「ふぅぅ……ッラァアアアーーーーーッ!!」
【奥義 : ドラゴン・スクリュー】
私の回転に合わせて、魔神族の巨体も螺旋状に宙を舞う!
ズドォォォォォン!!!
「ごぼはああああああ!」
魔神族が頭から地面に激突し、岩盤を砕きながらめり込んでいく。
土煙が舞い上がり、しばらく何も見えなくなった。
やがて煙が晴れると──。
「くそ……くそおおお!」
魔神族が、巨大な斧を振り上げようと最後の力を振り絞っていた。
「まだ……戦える……!」
「うっさい! 死んどけ!」
ドスン。
私は鉱物化(ダイヤモンド)した重い身体のまま、魔神族の顔面の上に座った。
「ぐぼっ」
斧がガランと落ちた。
「はい終了」
完全にピクともしなくなった。
「……斬新なトドメですね」
「でしょ?」
私と辰夫は勝利のハイタッチを交わした。
パシィン! という乾いた音が響く。
「私たち強くなってるな」
「かなりレベル上がりましたからね。……まぁ、我は投げられずに済みましたが」
辰夫がホッとしたような苦笑いを浮かべた。
「よし、次の魔神族が来る前に、ここから脱出しよう」
「ですね」
私たちは倒れた魔神族を後にし、奈落の底の奥深くへと向かった。
──魔神王の重い瘴気は、まだ奈落の底に漂い続けている。
「次は投げてやるから安心しろ辰夫」
「退職届、受理してください」
「やだよ。お前は一生私と居るんだよ」
「ふはは!嫌すぎます!」
(つづく)