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第2話:22時間のユーザー
学校の図書室。昼休みの窓際で、カホはスマホをいじっていた。
「NaPointって、今どうなってるんだろうね」
前の席のソウタが声をかける。
細身の体型にベージュのパーカー。ぼさっとした前髪の奥で、目元だけは妙に鋭い。
カホは静かに画面をスクロールしながら、軽く笑った。
「私も久しぶりに見たけど、まだ動いてたよ。みんなの投稿、わりと残ってる」
制服の胸ポケットからイヤホンのコードがのぞいていた。黒髪のロングは後ろで軽く束ねていて、顔立ちは涼しげ。
淡いピンクのネイルがスマホの画面をトン、とタップした。
「……あ」
表示されたのは、同じクラスだった“秋月ユウト”のプロフィール。
中学のとき、席が隣だった男の子。声は小さく、ノートの端にボールペンで丸を描く癖があった。
アカウントは、まだ残っていた。
アイコンはあのとき描いてた手描きのマスコットキャラ。
投稿は止まっていない。むしろ——増えていた。
カホは画面の下部を見て、まばたきを一度止めた。
「ログイン時間:22時間/日」
「……え?こんなに使ってるの?」
思わず声が漏れた。
ユウトはもう使ってないはずだ。
高校が変わってから、SNSにも現れなくなった。
そもそも、あの子、スマホあんまり好きじゃなかったはず。
投稿はどれもユウトっぽい。文体も丁寧で、言い回しもくどくない。
でも、なんというか——“手癖”が違う。
「なんか、ユウトっぽくないんだよね……」
カホは小さくつぶやいた。
そのとき、「今日のおすすめユーザー」という欄にユウトの名前が表示された。
その横に、見覚えのある自分のレビューが並んでいた。
「あなたと好みの近いユーザーです」
——ユウトの名前と、カホの投稿が、一緒に拡散されていた。
カホは画面を閉じて、イヤホンを巻き取り始めた。
何気ない昼休みの終わり。
でも、どこかで誰かが、彼の名前で何かを続けている。
それだけは、妙にはっきりしていた。