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第3話:その子だけが使われた
教室の隅で、ユメはじっと画面を見つめていた。
長い前髪が目にかかり、小柄な肩をすぼめるようにして座っている。
制服のブレザーはやや大きめで、袖が指先を半分隠していた。
つま先だけが規則的に床をトントンと揺れている。
昼休み、ミユは席からそっとのぞき込んだ。
ユメのスマホの画面には、NaPointのレビュー投稿がずらりと並んでいた。
「……ユメ、それ、また投稿してるの?」
声をかけると、ユメはほんの少しだけ笑った。けれど目は笑っていなかった。
「ううん、してない」
「え?」
ミユは思わずのぞき込む。画面には“ユメ”の名前が載っていた。
今週のおすすめレビュー5件。どれも、“彼女らしい文体”だった。
あたたかくて、優しげで、少しおっとりしていて。
ユメが書いてそうな文だけど——本人は首を横に振る。
「書いてない。ログインしてないし、通知も来てないの」
「でも、それって……」
ミユはことばに詰まる。
スマホを操作して、履歴を開こうとするも、ユメが手でそっと画面を閉じた。
「ねえ、ミユ。わたし、最近クレカ使ってないのに、
請求に《ナ・ポイント決済》ってあって……」
「え、アプリと連携してたっけ?」
「ううん。してない。だから、怖いの」
そのとき、チャイムが鳴った。
ユメは小さくため息をつき、スマホを鞄にしまいながら言った。
「……でも、きっとわたしの“名前”が書いてるんだよ。あれ全部」
ミユは何も言えなかった。
席に戻るユメの背中は、いつもより遠くに感じた。
その日の午後、NaPointで「人気の投稿者一覧」を開くと、
“ユメ”のアイコンが、またひとつ増えていた。
——別のアカウントで。