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朝比奈陽葵は、どこにでもいる中学一年生だ。
少なくとも、本人はそう思っている。
「よしっ!」
目覚ましが鳴る前に起きられたことに満足して、ひとりで小さくガッツポーズをする。
カーテンを開けると、朝の光が差し込んだ。
「今日もいい天気!」
春の空は青く澄んでいる。
特別なことなんて、何も起こらなさそうな朝だった。
学校では友達と笑い、授業中に少しだけ居眠りをして、放課後はコンビニでアイスを買う。
「陽葵ってさー、将来なにしたいの?」
「んー? うーん……ヒーローとか?」
「は? 何それ」
「うそうそ! でも困ってる人助ける仕事とかいいよね!」
冗談みたいに笑いながら言う。
能力者がいるこの世界で、“ヒーロー”は本当にいる。
中学三年生になると実技テストがあって、点数が高ければ能力育成の名門校に進めるらしい。
でも陽葵には関係ない話だ。
(私、能力なんてないし)
火も出ない。
氷も作れない。
怪我だって普通に痛い。
だからこれは、ただの憧れ。
そのはずだった。
放課後。
友達と別れ、ひとりで帰る途中。
突然、地面が揺れた。
「え……?」
振り向いた瞬間、爆発音。
建設中のビルから黒煙が上がる。
「きゃあああっ!」
悲鳴。
崩れる足場。
「まだ中に人がいるぞ!!」
その声を聞いた瞬間、陽葵の足は勝手に走り出していた。
熱い。煙たい。怖い。
それでも止まらない。
「大丈夫ですか!?」
瓦礫の奥で、少年が動けなくなっている。
天井が軋む。
(やばい……崩れる……!)
どうすればいいかなんて分からない。
でも。
(助けたい)
その一心だった。
――パキン。
足元から、音がした。
ひびが広がる。
次の瞬間。
瓦礫を支えるように、氷が地面を走った。
「え……?」
冷たい感覚が指先に広がる。
同時に、胸の奥が熱くなる。
「う、あ……っ!」
炎が爆ぜる。
崩れかけた柱が焼け落ち、道が開く。
でも少年の腕は血に染まっている。
「いや……いやだよ……」
涙がこぼれた瞬間。
淡い光が、陽葵の手から溢れた。
少年の傷が、ゆっくりと塞がっていく。
静寂。
そして、激しい疲労。
膝が崩れる。
「……え、なに……今の……」
自分の手を見る。
震えている。冷たい。熱い。力が入らない。
遠くで、誰かがこちらを見ていた。
鋭い視線。
静かに、確信するように呟く。
「三属性……しかも治癒まで」
陽葵はその声を聞くことなく、意識を手放した。