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「ところで、この手斧貸してもらえないかな」
牧原が大沢に聞いた。
「それはダメ。一個しかないんだから」
大沢が断る。
「それなら仕方ないね。何とかするよ。」
そんなやり取りのあと、霧島と仲間の魔法少女たちに自宅まで送ってもらう。
「どうしてモンスターを同士討ちさせて行列を止めたり、非常事態宣言の中、外出したりするんですか?」
霧島が聞く。
牧原は少し考え込む。しばらくして苦笑いを浮かべて首を傾げる。
「僕みたいな弱い魔法少女が無謀だと言いたいんでしょ」
「牧原さんは、魔法少女として優秀ですが、戦闘には向いていません。くれぐれも無茶をしないでくださいね」
「ありがとう。そうするよ」
牧原は昼食を終えると、疑問に思っていたことを確認することにする。モンスターの魔法少女に変身すると、自宅の庭の道路に近い場所に行き、道路の方を見る。
十体ほどのモンスターが群れで歩いていた。牧原に気付いているのか、いないのか、そのまま歩いて行ってしまう。
行列はなくなったが、多くのモンスターが徘徊しており、魔法少女であっても、攻撃力がない魔法少女には外出はかなり危険な状態だ。
牧原は、モンスターの死体を食べる七センチぐらいの球体に目と口だけのモンスターを二体出す。午前中に豊島第十高校のモンスター死体置き場で入手した、モンスターを大きくする小さな二つの魔法石の破片を小袋から取り出す。掌の上に乗せて二つを比較すると明らかに片方が大きいのが分かる。二体のモンスターの前に一つずつ置き、モンスターに食べるように指示する。
二体のモンスターは、それぞれ食べ、死体置き場の時と同様にそれぞれ大きくなった。しかし、大きさはそれぞれ違った。大きい破片を食べた方が三十センチぐらいで、小さい方の破片を食べた方が十五センチぐらいに大きくなった。
「やっぱり気のせいじゃなかった」
新たな実験をするために、大きくなった二体のモンスターを処分することにする。
黒髪の魔法少女に変身すると、予め準備していた出刃包丁で、小さい方のモンスターを処分し、体内の魔法石の破片を取り出そうとする。しかし、思った様に包丁ではモンスターを斬り裂けない。
これは長丁場になると判断し、とりあえず、大きい方のモンスターも処分する。
見通しが甘かったなあ。大沢さんの手斧を借りた方が良いかなぁ。でも、借りたら事情を聞かれて実験の事がバレるよなぁ。成果が出るまで知られたくないしなぁ。
死体から魔法石の破片を取り出すために苦労していると、家の前をモンスターが時折通り過ぎるのが見えた。しばらく頑張ったかいもあり、小さい方のモンスターから、魔法石の破片を取り出すことができた。庭にある水道、立水栓へ行き、血を流す。
その時、自転車に乗った魔法少女、藤田が道路を走って来る。
「この辺はモンスターが大量にうろついているから、危ないよ」
牧原は、藤田とは初対面であり、知らない魔法少女であったが、藤田へ大声で忠告する。
忠告もむなしく、鉢合わせするようにモンスター十二体と遭遇する。
藤田は、自転車を道路の中央に止めて、降りる。
「ご忠告ありがとう。だが、心配は要らない。なぜなら、俺は最強だからだ」
藤田から針のようなモノが発生し、先頭のモンスター二体にあたり、あっさり倒す。
「す、すごい」
こんなに強い魔法少女は、この藤田以外では、霧島しか思いつかない。
「声援ありがとう」
応援しているわけではないが、声援を送っていることになっていた。
再び針のようなモノが発生し、新たに先頭になったモンスター二体を倒す。
「また、すごい!」
牧原は心底感心している。
「驚くのは、まだ早いぞ」
藤田は、両手に小さな剣を一本ずつ二本出す。すると徐々に長くなり、剣になって行く。剣を持って、自らの体を軸にし回転する。回転は徐々に速くなり、剣も大きくなっていき、モンスターの方へ移動していく。
モンスターは、動きを止め避けようとする個体や、巨大化する剣を受けようとしたりするが、あっさり藤田の攻撃で倒されていき、全滅する。
「す、すごい!」
牧原は、歓喜の声を上げる。
「俺の真の強さはこんなもんじゃないぞ!」
藤田は巨大な剣を軽々持ちながら、ポーズを取る。
「とりあえず、この場に居たモンスターは全滅したかな~」
牧原は苦笑いを浮かべながら言った。
「俺の真の凄さを見れなくて残念だったな」
藤田は、当たり前のように言った。
「とても残念です」
牧原は仕方なく言った。
藤田は満足すると、モンスターの死体が転がる辺りを見回す。
「俺はとても強いのだが、一つだけ弱点があるんだ」
藤田は突然神妙な顔をして言い出す。
「はぁ」
牧原にとってはどうでも良い話だ。
「俺の攻撃は、尖った金属を飛ばし敵に刺したり、金属製の武器を作って殴ったりする。そして、モンスターを倒してもその金属は残ってしまうんだ。その金属が危ないと仲間から文句を言われて、戦闘後は回収することになっている。それがかなり面倒なんだ」
藤田は切実そうに言う。
「そうなんですね」
牧原は適当に相槌を打つ。
「それがかなり面倒なんだ」
藤田は繰り返した。
「わかりました。回収するのを手伝いますよ」
牧原は苦笑しながら言った。
「おう。助かるぜ」
牧原は、感覚を研ぎ澄ますと金属のありかが分かる。そそくさと拾い集めると、藤田の自転車の近くに集める。
藤田は金属を集めるのをほどほどで済ませると、集めた金属を一つに固め始める。牧原が最後の金属を集め終わる頃には、大きな金属の球体になっていた。