テラーノベル
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🖤は、誰が見ても“男前”だった。
背が高くて、無口で、困っている人を放っておけない。
クラスでも頼られる存在で、αとしても優秀だと言われている。
だけど本人は、そんな評価にあまり興味がなかった。
ただ――
🧡のことだけは、放っておけなかった。
🧡はΩ。
ふわふわした髪に、よく笑う目。
誰にでも懐く子犬みたいな性格で、男子からも女子からも可愛がられている。
けれど、Ωであることは、時々🧡の足かせになった。
体育の授業で無理をさせないように配慮されたり、
行事のたびに「大丈夫?」と心配されたり。
悪意はない。
でもその優しさが、少しだけ苦しかった。
「俺だって、ちゃんとできるのに」
ぽつりと漏らしたその声を、🖤だけが聞いていた。
ある日、放課後。
生徒会の仕事を終えた🖤が廊下を歩いていると、
階段の踊り場でうずくまる🧡を見つけた。
「……🧡?」
駆け寄ると、🧡は顔を上げる。
「大丈夫……ちょっと、疲れただけ」
Ω特有の体調の波。
軽いものとはいえ、無理をすればしんどくなる。
🖤は無言で自分のブレザーを脱いで、🧡の肩にかけた。
「無理するな」
低くて、やわらかい声。
🧡は少しだけ驚いた顔をして、それからふにゃっと笑う。
「🖤ってさ、ほんと優しいよね」
「……普通だ」
「普通じゃないよ。俺、わかるもん」
その言葉に、🖤の胸がわずかに熱くなる。
αは強くあるべきだと言われる。
守る側で、導く側で、揺らがない存在。
でも、🖤は知っていた。
🧡の前では、自分のほうが弱くなることを。
文化祭の準備期間。
🧡はクラスの出し物の中心になって動いていた。
笑って、走って、声を張って。
けれど、ある日。
「やっぱΩは控えたほうがいいんじゃない?」
そんな何気ない一言が、空気を凍らせた。
悪気はなかった。
ただの“心配”。
でも、🧡の笑顔はその瞬間、ほんの少しだけ曇った。
それを見た🖤は、静かに前に出る。
「問題ない。俺がフォローする」
その一言で、周囲は黙った。
αの言葉は重い。
けれど🧡は、少し怒ったように🖤を見た。
「守られなくても、俺やれるし」
放課後、校舎裏。
🧡はむくれていた。
「俺、そんなに頼りない?」
「違う」
🖤は即答した。
「お前は、強い」
「……え?」
「無理して笑うとこも、悔しいのに飲み込むとこも、全部見てる」
🧡の目が揺れる。
「俺は、お前を守りたいわけじゃない」
一歩、近づく。
「隣に立ちたいだけだ」
その距離は近いのに、触れない。
触れたら壊れてしまいそうで。
🧡は、しばらく黙ってから、ぽつりと言った。
「……俺さ、αってちょっと怖かった」
Ωとして生きる中で、
“選ばれる側”になることへの不安。
「でも🖤は、違う」
「俺をちゃんと見てくれる」
その言葉に、🖤の喉が詰まる。
「🧡」
名前を呼ぶ声が、少しだけ震えた。
「俺は、お前を選ぶとかじゃない」
「最初から、隣にいるって決めてる」
🧡の目が大きくなる。
夕焼けが二人を染める。
やがて🧡は、小さく笑った。
「じゃあさ」
「俺も、🖤の隣にいる」
そっと差し出された手。
🖤は一瞬迷ってから、ゆっくりとその手を握った。
強くもなく、弱くもなく。
ただ、確かに。
文化祭当日。
🧡は誰よりも輝いていた。
笑顔で走り回り、クラスをまとめ、
最後までやりきった。
「見たか?」
誇らしげに笑う🧡に、🖤は小さく笑う。
「ああ。ずっと見てた」
その言葉に、🧡の耳が赤くなる。
「そういうとこ、ずるい」
「事実だ」
夕暮れ、校庭。
人の少なくなった場所で、二人は並んで座る。
風が吹き、🧡が少しだけ身を寄せる。
🖤は自然に肩を貸した。
「なあ、🖤」
「ん?」
「俺、Ωでよかったかも」
「なんでだ」
「だって、🖤に会えた」
その一言で、🖤の心臓が強く打つ。
「……俺も」
短い言葉。
でも、それだけで十分だった。
二人の未来は、まだ始まったばかり。
αとΩという枠を越えて、
ただ“🖤と🧡”として。
これからも、隣で。
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