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👦 シーン1:抜け殻のような碧族
午後の静かな時間帯。
《碧のごはん処(ミドリ)》に、ひとりの少年がふらりと現れた。
まだ10代前半、髪は短く、碧族特有の碧素リングが薄く浮かぶ額。
だが、その目は虚ろで、椅子に座っても背筋は丸まったままだ。
「……味なんて、もうわかんない。どうせ食べなくても生きられるし……」
彼は人間だった頃の記憶を、自ら閉ざしていた。
すずかAIが小声のようなトーンで告げる。
「碧素循環、不安定。共鳴記憶が滞っています」
タエコが静かにうなずき、台所へと歩いた。
「そんなん言わんと。――記憶ごと、炊き込んだろか」
🍚 シーン2:杭からの炊き込み
調理端末に杭コードを入力する。
《FRACTAL_COOK_MODE=TRACE_MEAL》《MEMORY=FAMILY_LAST_DINNER》《EMOTIONAL_TONE=SOFT》
取り出されたのは、少年の碧族化時に刻まれた杭の記録。
そこに残っていたのは、“家族との最後の夕食”。
白米に味噌味の根菜と、小さな焼き魚、少し焦げた卵焼き。
記憶に合わせて、少しだけ塩が濃くなっている。
すずかAIがそっと確認する。
「再現完了。記憶共鳴リスク、許容範囲内」
「ほい、できたで。食べるん、久しぶりでもええねん」
🥢 シーン3:「味がする」
少年は無言で箸を持ち、炊き込みごはんを口に運んだ。
一口、二口……そしてふと、手が止まる。
「……味が、する」
その瞬間、彼の身体の碧素がゆるやかに循環をはじめ、額の碧素リングが静かに輝いた。
記憶が少しだけ戻ったように、少年は微かに笑った。
「母さん、……卵焼き、いつも焦げてた」
タエコは何も言わず、笑ってうなずいた。
記憶は痛みだけじゃない。
味が、それをやさしく呼び戻してくれる。