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🕯️ シーン1:誰もいない昼下がり
昼の賑わいが過ぎ去り、店内に静けさが戻る。
《碧のごはん処(ミドリ)》の厨房では、タエコがいつものように包丁を研いでいた。
その時、調理端末の画面に、ふとレシピコードが浮かび上がる。
誰も注文していない――はずなのに。
《FRACTAL_COOK_MODE=LEGACY》《SOURCE=OLD_HINGE_LOG》《ID=“SADA_03”》
「……サダの杭……まさか」
🧑🍳 シーン2:仲間のレシピ
タエコの手が止まり、すずかAIが解析を始める。
「街の外壁フラクタルより、過去ログデータが発掘されました。対象:仲間“サダ”の杭」
そのレシピは、かつて戦場で共に過ごした仲間――サダが打った杭に残されていた“最後の料理”。
「サバと根菜の、碧味噌煮……あいつ、これ好きやったなぁ」
タエコは無言で鍋を取り、火を入れる。
《TRACE=LOST_TASTE》《RATIO=REBUILD》《EMOTION=LONGING》
碧素調味料が記憶の配合を再現し、甘く、苦く、懐かしい香りが漂っていく。
🔇 シーン3:言葉の残響
完成した料理を、誰もいないカウンターにそっと置くタエコ。
その瞬間、調理台上の投影端末から、かすれた音声ログが再生される。
『……タエコ、今度うちが生きて帰ったら、もう一回あれ作ってな。そしたら、やっと、うちの“碧”が満ちる気がすんねん』
厨房も客席も、しんと静まり返る。
すずかAIが、初めてその味に言葉を乗せた。
「……うまい」
タエコは、少しだけ目を伏せて笑った。
「ほんまに、ようやく言うたなぁ……」
料理は、記憶を越え、碧素を巡り、いのちの声をよみがえらせる。
そして今日もまた、ひと皿が静かに置かれる。