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【番外編】辰哉のコーヒーブレイク☕️
コト、と白磁のカップが卓上へ置かれる。
立ち上る湯気が、ゆっくりと揺れた。
個室に流れる二胡の音色。
円卓を回る料理。
窓の外では、さっきまで降っていた雨が嘘みたいに止んでいる。
深澤は静かにコーヒーを口へ運んだ。
中華料理店へ来ても、頼むものだけは昔から変わらない。
苦味が、舌の上へ広がる。
向かいに座る宮舘は、その様子を見て小さく笑った。
「相変わらずですね」
「なるほどねぇ」
それだけ返して、深澤は窓の外を見る。
病院を見下ろせる、この席が好きだった。
人は、上から眺めるとよく見える。
誰が近付き。
誰が離れ。
誰が焦り。
誰が笑うのか。
この数か月で、それが随分とはっきりしてきた。
雪うさぎが病院へやって来た日。
ただ一人の新人看護師。
最初は皆、少し可愛い後輩が入ってきたくらいにしか思っていなかった。
なのに。
気付けば、病院中がその子を目で追っている。
教授候補。
理学療法士。
放射線技師。
患者までもが彼に夢中になった。
一人増えるたびに盤面が動き。
誰かが笑い。
誰かが苛立ち。
誰かが手を伸ばした。
「随分と賑やかになりましたね」
宮舘が静かに言う。
「そうだね」
深澤は頷く。
「教授戦だけじゃなくなった」
その一言で十分だった。
教授の椅子を奪い合う戦いだったはずが。
いつの間にか。
奪い合われているのは、別のものになっている。
コト、とコーヒーカップを置く。
立ち上る湯気が、静かに揺れた。
深澤はふっと口元を緩める。
あの日も、同じように円卓を囲んでいた。
教授戦の行方。
誰が一歩抜け出すのか。
そんな話をしていたはずなのに――
気付けば話題は、あの雪うさぎだった。
辰哉💜「狼の勝ちかな?」
そう口にした自分へ、黒豹は余裕を崩さず笑い返した。
蓮 🖤「まだ時期尚早かと」
その横で、もう一人はグラスを揺らしながら、
亮平💚「ほぼ確」
なんて平然と言ってのけた。
あの頃は、まだ全員が余裕を残していた。
誰も、自分だけは冷静でいられると思っていた。
深澤はコーヒーをひと口飲む。
苦味が舌に広がる。
辰哉💜「……それが、どうだ。」
思わず笑みが零れた。
辰哉💜「随分とのめり込んじゃって♡」
独り言のように零したその一言へ、宮舘が静かに視線を向ける。
「皆さんですか?」
深澤は首を横に振る。
「全員」
「近付きたい者。」
「奪いたい者。」
「守りたい者。」
「見守る者。」
「それぞれやり方は違うけど――」
カップを持ち上げる。
「結局、みんな雪うさぎから目が離せなくなった」
盤面を動かすように、深澤は人差し指で空をなぞった。
まるで、次の一手を楽しむゲームマスターのように。
「ただの教授戦だったはずでは?」
教授の椅子を奪い合うだけなら、もっと静かな勝負だった。
論文を書き、実績を積み、手術件数を競う。
そんなものは、何年も見てきた。
だからこそ、少しだけ刺激が欲しかった。
誰か一人。
盤面を揺らす駒があれば、この膠着した教授戦も面白くなると思った。
だから、雪うさぎという一枚の駒が盤上へ置かれた。
それだけのことだった。
誰が最初に動くのか。
誰が最後まで冷静でいられるのか。
それを見たかっただけだった。
ところが。
動き出したのは盤面ではなく、人の心だった。
狼は距離を縮めるたびに、本気になっていった。
黒豹は静かに構えながらも、気付けば雪うさぎを目で追うようになった。
いつしか教授になるためではなく、あの子の笑顔を失いたくないという理由で動き始めた。
その瞬間から、教授戦は加速した。
雪うさぎを手にした者が、教授戦まで制する。
「実に面白い子だ」
ぽつりと落ちた、その一言。
“教授”でも。
“病院”でもない。
“あの子”。
深澤は、静かにコーヒーを口へ運んだ。
苦味が、ゆっくりと舌へ広がる。
「……随分と、ご執心だね」
宮舘は答えない。
白磁の皿へ視線を落としたまま、小籠包を箸で割る。
立ち上る湯気。
しばらくして、ようやく口を開いた。
「昔から、放っておけない子なんです」
それだけだった。
“昔から”。
その四文字だけが、妙に重かった。
深澤は何も聞かない。
聞けば、この男は答えてしまう気がした。
だから、聞かなかった。
ただ一つだけ。
あの日、病院への出資を持ち掛けた席を思い出す。
設備投資。
教授戦。
経営方針。
そんな話が並ぶ中で――
彼が最初に尋ねたのは、病院の将来でも利益でもなかった。
『新人看護師は、いますか』
あの時は、偶然だと思った。
だが今は違う。
教授戦の駒でもない。
病院経営でもない。
この男が見ているのは、最初から、たった一人。
「……なるほどねぇ」
思わず笑みが零れた。
狼も。
黒豹も。
まだ気付いていない。
盤面の外側から。
もう一人、このゲームを見つめている男がいることを。
コト。
空になったコーヒーカップが、静かに卓上へ置かれた。
「そういえばさぁ」
コーヒーカップを置いて笑う。
「明日、時間ある?」
宮舘は静かに頷く。
「俺のお気に入りの店があるんだよ」
少し悪戯っぽく笑う。
「普段は誰にも教えないんだけど」
一拍。
「宮舘さんだけ特別♡」
宮舘は黙って続きを待つ。
「〝雪ちゃん〟って子がいてさ」
コト――
ほんの僅か。
宮舘の持っていた茶杯が止まる。
「もうさ、めちゃめちゃ可愛いの。俺どストライク♡」
宮舘は何も言わない。
「細くて白くて、守ってあげたくなる感じ?」
深澤は楽しそうに笑う。
「絶対宮舘さんも好きだと思う」
……
数秒。
沈黙だけが流れる。
やがて宮舘は静かに茶を口へ運んだ。
「ユキ……ですか…………」
「あっでも本気になっちゃダメですからね。俺が狙ってるんで♡」
「申し訳ありませんが、そういう場所にはあまり縁がなくて」
穏やかな笑みを浮かべたまま、宮舘は静かに断る。
深澤は「あちゃー」と肩を竦めた。
「えー、もったいない」
コーヒーカップを回しながら、小さく笑う。
「ほんっと可愛いんだけどなぁ」
少しだけ考えるように天井を見上げると、思い出したように続けた。
「あっ、そういえばさ」
「雪うさぎに、ちょっと似てるんだよね」
宮舘の指先が、ぴたりと止まる。
「もちろん女の子だから全然違うんだけど。なんて言うのかなぁ……守ってあげたくなる感じ?」
「白くて、小さくて。」
「俺さ、病院の雪うさぎ見てると毎回思うんだよ。」
深澤は肩を揺らして笑う。
「あいつ、女の子だったら危なかったなぁって♡」
個室に、静かな沈黙が落ちる。
宮舘は何も言わない。
ただ、止まっていた茶杯をゆっくり持ち上げ、一口だけ口へ運んだ。
そして。
コト――。
静かに置く。
「……では」
宮舘が静かに茶杯を置く。
深澤は思わず顔を上げた。
「少しだけ、お付き合いしましょう」
「えっ、行くの?」
さっきまで乗り気ではなかった男の返事に、深澤は目を丸くする。
「理事長がお気に入りだと仰る方ですから」
穏やかに笑う。
ただ、それだけ。
理由は語らない。
「でしょ〜♡」
思わず笑みが零れる。
やっぱり、自分の〝推し〟は誰かに見せたくなる。
深澤は上機嫌でコーヒーカップを置いた。
コト――
雨は、すっかり上がっていた。
宮舘は最後まで穏やかな表情を崩さない。
何を考えているのか。
何に興味を持ったのか。
深澤には分からない。
ただ一つだけ。
〝雪うさぎに似ている〟
その一言を口にした瞬間だけ、この男の空気がほんの少し変わった気がした。
――まぁ、気のせいか
コト。
テーブルの上に置かれたスマートフォンが、小さく震えた。
深澤は何気なく画面へ目を落とす。
差出人――阿部亮平。
「ん?」
メールを開いた、その瞬間。
件名:教授戦取り下げのお願い
思わず口元が緩む。
「……なるほどねぇ」
宮舘が静かに視線を向ける。
「何か?」
深澤は画面を閉じると、コーヒーをひと口飲んだ。
「一人、ゲームを降りるらしい」
宮舘が静かに視線を向ける。
「取り下げですか?」
深澤は小さく笑った。
「ルールは絶対♡」
一拍。
「……珍しく読み違えたようだね。」
深澤は何事もなかったようにコーヒーをひと口飲む。
苦味が静かに舌へ広がる。
「雪うさぎは、狼まで惑わせるらしい♡」
教授の椅子より。
一人の雪うさぎを選んだ男。
盤面は、また一つ大きく動く。
その笑みは、どこか楽しそうだった。
「……ますます面白くなってきた♡」
深澤は小さく笑った。
盤面は、まだ終わらない。
誰よりも多くの心を動かす雪うさぎは、今も何も知らずに病棟を歩いている。
「ただ……一つだけ」
空になったカップ。
左手を軽く挙げると、何処からともなく現れたスタッフが湯気が立ち上るコーヒーカップを深澤の前に置いた。
覗き込んだカップは、底が見えないほどの暗闇だった。
苦いのに。
気付けば、また口に運んでしまう。
深澤はふぅ、と息を吹きかける。
黒い水面が静かに揺れた。
「さて、次は誰が雪うさぎの巣穴に落ちるかな♡」
深澤は小さく肩を竦めた。
「教授戦のつもりだったんだけど……」
「気付けば、恋の巨塔だ♡」
一拍。
「あ、彼にも同じものお願い♡」
宮舘が顔を上げる。
「私は結構です」
「ダメダメ。」
深澤は悪戯っぽく笑う。
「まずは同じものを飲んでみないと♡」
コメント
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長いことサボっていた長編😂 あれ?どこまで書いてたっけ??? となった結果、軽くこれまでのストーリーを振り返ってみました🤭 連休中🖌️頑張ります💙
わかる〜〜!辰哉、ずっと余裕そうな顔してるけど、実は盤面全部見えてて、でも本人が気付いてない感じがたまらないw 宮舘さんの「雪うさぎに似てる」発言の後のあの止まり方、ゾクッとしたよ…。教授戦じゃなくて恋の巨塔になってるの、まさに今の展開って感じで萌えた💜 #みぅの読書記録
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#SixTONES
Sora🍁🐥
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