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最終話(第9話):灰色のレクイエム海堂直也の命が夜風に溶けたその瞬間、乾巧の胸を激しい痛みが貫いた。振り返ることはしない。止まれば、あいつの遺した最期の旋律を汚すことになる。
「ハル、前だけ見ろ。海堂がくれた明日を、絶対に手放すな」
スマートブレイン本社の最深部――黒く冷たい機械に覆われた「王のゆりかご」。怪しく脈動する巨大なカプセルの前で、巧は静かにファイズドライバーを腰に装着した。
『王の誕生まで、あと120秒』
無機質なアナウンスが響く中、カプセルを護衛する防衛兵器群が巧へと一斉に銃口を向ける。だが、巧の瞳に宿るのは、冷徹な怒りと不変の覚悟だけだった。
「お前たちが創り出そうとしてるのは、未来じゃない。ただの過去の呪いだ」
『555』――『COMPLETE』
赤いフォトンブラッドが闇を切り裂く。ファイズへと変身を遂げた巧は、一切の無駄なく敵陣へと躍り出た。ショットで装甲を撃ち抜き、Pointerをセット。オートバジンの援護射撃が幾重もの爆炎を上げ、退路を断つ。
「ハル! 真理のそばにいろ!」
ファイズポインターの放つポインター光線が、「王のゆりかご」のコアを正確にロックオンする。
『READY』
「俺には夢がない。……だけどな、夢を守ることはできる!」
高々と跳躍し、必殺のクリムゾンスマッシュが巨躯のシステムを深々と貫く。轟音とともに爆散する「王のゆりかご」。噴き出す炎が、オルフェノクの王を巡る愚かな野望を灰へと変えていった。
エピローグ
数か月後。朝日が差し込む『西洋洗濯舗 菊池』。
新しく張り替えられたガラス戸の向こうで、アイロンの湯気が柔らかく立ち上っている。ハルはすっかり打ち解けた様子で、真理の手伝いをしながら小さく笑っていた。
「真理さん、このシャツできました!」
「ありがとう、ハル君。……ふう、あの男たちがいないと、本当手がかからなくて助かるわ」
真理はそう言いながら、店先のベンチへと視線をやる。そこには誰もいない。だが、使い古された一本のギターケースが、静かに立てかけられていた。
街外れの丘の上。乾巧は一人、風に吹かれながら佇んでいた。
手のひらを見つめる。かすかに指先が灰化の兆候を見せているが、巧の表情に焦りはない。背負った運命を受け入れ、ただ今日という日を噛みしめるように空を見上げる。
「……海堂。世界は相変わらず退屈で、泥臭いよ」
どこからか、調子の外れたギターの音色が聞こえた気がした。
「でもな、悪くねえ明日だ」
巧は口元にわずかな笑みを浮かべ、再び歩き出した。英雄になれなかった男たちが命を懸けて繋いだ「夢」の続きを、この足で歩んでいくために。
(完)
コメント
1件
いやあ、最終話、読み終えたよ…。海堂の最期のシーン、めちゃくちゃ響いたわ。クライマックスの戦闘も熱かったけど、それ以上にエピローグの静かな空気感が刺さった。乾巧の「悪くねえ明日だ」ってセリフ、短いけど重みが違う。ギターケースだけ置いてあるベンチの描写も含めて、余韻が半端ない。いい最終回だった。ありがとう、赤虎先生。