「トラゾーって小説家とか脚本家とかになりたいって思ったことないの?」
ふと日常組のメンバーの1人───ぺいんとから1つの質問を投げかけられた。そしてその質問にその場にいる他の2人───しにがみさんとクロノアさんが反応を示す。
「確かに!物語性凄いですよね?」
「俺も気になるかも! 」
みんなからの期待の眼差しに、俺───トラゾーは困惑した。今は撮影が始まる1時間前で、言い逃れができるような時間ではない。俺はあまりいい話ではないように感じるので渋々と、でも曖昧な返事をした。
「なりたかったよ。…でも、やめたんだ。」
「何で?」
返事をすればぺいんとは素早く返事をし、早く話の内容を話せよとでも言わんばかりの言葉と顔に、俺はその3人からの圧に耐えきれなかった。3人の反応に俺は呆れながらも、一つ一つ言葉を紡ぐ。
「…昔の頃の話かな。」
……………
????年 5月2日。
まだ少し肌寒くて、木に咲いていたピンクの桜が緑の葉に移り変わる頃。 当時小学三年生の俺───トラゾーは縁側で足を揺らしながらただただ本を読み漁っていた。
当時の俺も今のようにコミニュケーションに困ったことはなくて、人と絡めるタイプだったのは変わりない。ただその日は新刊の本が気になって仕方がなかったため友達からの遊びの誘いを断り本にひたすら熱中していた。
すると、家の奥から足音が聞こえる。
「トラゾー!春の作文、選ばれたんだって!」
それは俺のお母さんで、ニコニコな笑顔で縁側まで裸足で来ていた。それに俺は驚きを隠せず、大きな声で「本当?!」と本を閉じてお母さんと共に喜んだ。
何てったって、俺の将来の夢は小説家とか、脚本家とかの物語を作る仕事に就きたかったからだ。そして作文が選ばれた回数は今までで3回であり、2回優秀賞に選ばれたことがある。 そして今日で作文が選ばれた回数は4回目だ。
一回選ばれるごとに夢に近づいていっている気がして、落ち着くなんてことにはままならなかった。
「今日はちょうど誕生日だし、なんか買いに行く?」
笑顔で言う母の顔を見て、俺はこくりと頷いた。
その時、俺は背筋が凍るように怖かった。
___もし作文が選ばれなくなったとき、みんなは今までと同じように接してくれるのか想像ができなかったから。
そうして誕生日には本を1つ買ってもらい、俺は家に帰って読みかけの本と共に読破した。小説を見ると、何故か自分も”こういう物語が書きたい!”って心の鍋がぐつぐつと煮えるようになっていて必死に真っ白な自由帳にネタを書いては文章をつくっていた。
その時、本当に時の進みが速かったのを覚えている。
手が止まらなくて、ずっとこうやっていたくて、田舎で何もない俺の唯一の癒しだったと思う。
……………
GWが終わって、俺は学校の登校日へとなった。
玄関で靴を履き、ドアを開ける。後ろを振り向き、笑顔で手を振る母に俺も笑顔で手を振ってからドアを閉めた。そうして一歩、また一歩と学校の通学路を歩んでいく。
散った桜の花びらは人々に踏まれてただの塵のようになっていて、咲き乱れていた頃の綺麗な桜とは言い難かった。そんな桜の花びらを踏まぬようにスキップをして進む俺は、自分の中でこういうシーンも入れたりとかしたらいいかも、なんて想像を膨らませていた。
「あっ、トラゾーじゃん!」
クラスメイトの声が聞こえたと共に、俺は立ち止まって声が聞こえた方に振り向き、相手の顔を見る。満面の笑みで、こちらに手を振って走ってきていた。だから俺も、そいつのそばにより、音高いバトンタッチを交わした。
「おっはよー!」
明るく元気な声に、俺も返す。
「おはよう。」
ただの変わらない日常。でもやっぱり、俺はその変わらない日常が大嫌いだった。
コメント
6件
新作だ!めっちゃ楽しみにしてました!今回も神作品が出来そうですね!楽しみです!
新作嬉しすぎます…!!(๑>◡<๑) すっごく楽しみです!✨ 次の投稿も頑張ってください!
やったぁぁ!早く見れました😭 今回のお話もきっと神作になりますね、というかもう神作品ですね!(?) これからも応援します!