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#好き好き好き
Para★noia 🩵🪼
830
朧.
42
角砂糖レモン
100
26
マサカゲが目を覚ましたとき、最初に見えたのは、黄色と黒のブロックだった。
視界のすぐ前で、ブロックが積み上げられている。
一つ。
二つ。
三つ。
ミステーが、真顔で作業を続けていた。
周囲は洞窟だった。
天井は低く、壁には青白い鉱石が点々と埋まっている。地面には、見たことのない黒い岩が広がっていた。
マサカゲはゆっくりと上体を起こした。
「……ここはどこだ」
「洞窟」
ミステーは答えた。
「それは見れば分かる」
「なら、問題ない」
マサカゲは周囲を見回した。
メバルもいない。
カキもいない。
アオノもいない。
そして、K-Tもいなかった。
「他の連中は?」
「いない」
「それだけか」
「いないものはいない」
ミステーは、またブロックを積み上げた。
マサカゲは立ち上がり、彼の作業を見た。
黄色いブロックと黒いブロックが、頭の上へ向かって積まれている。
形は、ミステーがいつも頭に装着していたピラミッドにそっくりだった。
「お前は、何を作っている」
「私のピラミッド」
「見れば分かる」
「なら、問題ない」
「その返しをやめろ」
ミステーは作業を続ける。
やがて、三角形の屋根が完成した。
小さなピラミッドだった。
だが、ミステーがその中へ入ると、頭だけでなく上半身まで隠れる大きさがある。
マサカゲは眉をひそめた。
「それを被るつもりか?」
「前のピラミッドは、光線に消された」
「だから新しく作っているのか」
「予備」
「予備を作る前に、他の仲間の捜索をしろ」
「ピラミッドが必要」
「お前はもう死ぬつもりか?」
マサカゲの声が洞窟に響いた。
ミステーは、完成したピラミッドを見上げた。
「かっこいいからいいでしょ!」
マサカゲは絶句した。
ミステーが大声を出したことにも驚いたが、その理由があまりにも彼らしくなかった。
「……本気で言っているのか」
「本気」
「前のピラミッドも壊れた。今度のものも、光線に当たれば消える可能性がある」
「それでも、かっこいい」
「防具としての性能は?」
「かっこいい」
「防御力は?」
「かっこいい」
「耐久性は?」
「かっこいい」
マサカゲはこめかみを押さえた。
「会話にならない」
「ピラミッドは、会話をしない」
「お前がしている」
ミステーは完成したピラミッドを頭に被った。
黄色と黒の斜面が、彼女の頭から肩までを覆う。
前方に小さな覗き穴が開いているため、視界は確保されているようだった。
「どう?」
「邪魔だ」
「かっこいい?」
「……否定はしない」
ミステーは満足そうに頷いた。
そのとき、洞窟の奥から物音がした。
何かが石を踏んでいる。
マサカゲはすぐに身構えた。
ミステーも、ピラミッドを両手で押さえる。
「敵か?」
「足音が二つ」
「二つ?」
暗がりから、人影が現れた。
オレンジ色のヘルメット。
その後ろに、細身の人影。
「マサっち!?」
カキが声を上げた。
マサカゲは剣を下ろした。
「カキ!」
「よかった、生きてた!」
カキは走ってくると、マサカゲの肩を強く叩いた。
「痛い」
「ごめん! でも、消えたと思ってたんだよ!」
「こちらも同じだ」
カキの後ろから、アオノが歩いてくる。
「合流できた」
「お前たちは、どこから来た」
「洞窟の別の区画。目を覚ました時、カキが近くにいた」
アオノは周囲を見回した。
「ここは、地下構造の一部だと思う。複数の通路が接続されている」
「メバルとKさんは?」
カキの表情が曇った。
「分からない。俺とアオノが合流したときには、二人ともいなかった」
「ミステーとマサっちは、ここにいたんだな」
「私が呼んだ」
ミステーが言った。
「呼んだ?」
カキが聞き返す。
「ピラミッドを作っていた」
「それ、呼んだことになるのか?」
「ピラミッドは目立つ」
カキは完成したピラミッドを見上げた。
「確かに、めちゃくちゃ目立つけど……」
マサカゲは、四人が合流できたことを確認した。
しかし、喜ぶ気持ちにはなれなかった。
メバルとK-Tがいない。
別の場所へ飛ばされたのか、それとも本当に消滅したのか。
誰にも分からない。
「まず、安全な場所を作る」
アオノが言った。
「この洞窟は敵の出現数が多い。光源も少なく、通路も複雑。長時間の滞在には向かない」
「ここで探し続けるのは危険ということか」
マサカゲが尋ねる。
「違う。探すための拠点が必要」
アオノは、採取した石材と鉄鉱石を床へ並べた。
「この洞窟の入口付近に、セキュリティハウスを作る」
カキが目を輝かせた。
「セキュリティハウスって、敵が来たら自動で教えてくれる家?」
「警報。自動扉。簡易迎撃装置。監視用の光源を設置する」
「それ、前に失敗した自動迎撃トラップみたいに、俺たちも撃つやつじゃないよな?」
「改良する」
「改良って言い方が怖い!」
アオノは気にせず、設計図を地面へ広げた。
入口に二重扉。
左右に見張り台。
屋根には警報用の青い鉱石。
地下には、資材を保管する部屋。
「防衛設備を先に作る。敵の接近を検知すれば、音と光で知らせる」
「攻撃装置は?」
マサカゲが聞いた。
「最後に作る。仲間への誤射を防ぐ必要がある」
カキは胸を撫で下ろした。
「その順番で頼むよ」
マサカゲは地面に描かれた設計図を見た。
「作業分担を決める」
「俺、鉱石を集める!」
カキが手を挙げた。
「洞窟の地形も確認する」
「危険区域には単独で入るな」
マサカゲが言う。
「分かってるって」
「お前は以前、巨大なクモに追いかけられて単独で走った」
「今回は走らない。必要なら、ものすごく速く歩く」
「同じだ」
ミステーが手を挙げた。
「私は、ピラミッドを増築する」
「拠点の建築に参加しろ」
「ピラミッドも建築」
「優先順位が違う」
「ピラミッドがあると、気分がいい」
マサカゲはため息をついた。
「……拠点の外壁を担当しろ。ピラミッド型の補強なら許可する」
「かっこいい?」
「機能性があればな」
ミステーは頷いた。
「機能性のある、かっこいいピラミッドにする」
*
鉄の村では、メバルがK-Tのそばを離れなかった。
K-Tは鍛冶師とともに、守護用の武器の設計を続けている。
メバルは作業台の横で、包帯と食料を整理していた。
「Kさん」
「何だ」
「さっきのこと、やっぱり忘れてないからね」
「何度も言うな」
「正しい救助方法だったって言ったことも?」
「事実だ」
「知らないっ! 痴漢! 変態!」
村人たちが一斉にこちらを見る。
K-Tは黙って設計図へ視線を戻した。
「この村にいる間、武器の製作を優先する」
「話をそらした」
「仲間を探すためにも必要だ」
メバルは少しだけ表情を曇らせた。
「みんな、どこにいるのかな」
「分からない」
「ガラケーの位置情報でも?」
「反応はある。だが、位置情報は共有されていない」
K-Tは修理したガラケーの画面を確認した。
端末に表示されるのは、自分の位置と、メバルの位置だけだった。
他の仲間の情報はない。
通信もつながらない。
メバルが手元の端末を覗き込む。
「マサカゲたちの場所は分からないんだ」
「ああ」
「じゃあ、探すしかないね」
「武器を完成させる。村の装備を整える。その後、移動する」
K-Tは青い鉱石を組み込んだ設計図を見た。
「仲間が生きているなら、必ず見つける」
メバルは頷いた。
「うん。今度は、ちゃんと一緒に帰ろう」
*
洞窟では、アオノたちがセキュリティハウスの基礎を作り始めていた。
石を積む。
鉄の柱を立てる。
入口に扉を設置する。
マサカゲが設計図を確認し、カキが洞窟から鉱石を運び、ミステーが外壁に黄色と黒のブロックを混ぜていく。
「ミステー、その壁は強度が落ちる」
アオノが指摘した。
「でも、かっこいい」
「強度を優先して」
「かっこよさも必要」
マサカゲが二人の間に入る。
「外側だけなら許可する。内側は鉄と石で固めろ」
「了解」
ミステーは素直に作業へ戻った。
洞窟の奥から、遠くで何かが動く音がした。
カキが剣を構える。
アオノは警報装置の端子を確認した。
まだ未完成だ。
音も光も、敵を知らせてはくれない。
「急いで完成させる」
マサカゲが言った。
「全員が生きていると信じる」
ミステーが、黄色と黒の壁を見上げた。
「Kさんも?」
「ああ」
「メバルも?」
「ああ」
「なら、入口を大きくする」
「なぜだ」
「帰ってきた人が、入りやすいから」
マサカゲは一瞬だけ黙った。
そして、設計図の入口部分を見直した。
「……それは必要だな」
遠く離れた鉄の村でも、同じ頃に炉の火が強く燃え上がっていた。
別々の場所に飛ばされた仲間たちは、まだ互いの位置を知らない。
それでも、それぞれの場所で生き残るための拠点を作り始めていた。
コメント
1件
ミステーの「かっこいい」連発、思わず笑っちゃいました。あのピラミッド愛とマサカゲの絶妙なやりとりが好きです。でも最後の「帰ってきた人が入りやすいから」って一言にじんわりきました。バラバラでもそれぞれ拠点を作りながら前を向く感じ、グッときますね。