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こにゃ
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「───何、言ってんの…」
蒸し暑い夏の日。蝉がうるさいほどに鳴いていて、雨なぞ降ってもいない、そんな金曜日だった。
明日から夏休みだと言うのに、この異常な暑さにアスファルトも泣いているように見える。無機物を叩く音は、横からも後ろからも聞こえ、よく人が行き来するのだと知らなくてもいいことを今更知った。
そんなどうでもいいことの中を彼───ぺいんとは汗が滴り落ちる中、どこか寂しそうな笑みで笑っている。
首筋から落ちた汗は、少々黄ばんだ制服のTシャツの中へ潜り込む、酷く冷たい汗だった。
「ねぇ、どういうこと?」
自身───クロノア───の問いかけに相手は少々目が泳ぐ。どう説明すればいいのかわからないとでも言った顔だ。
時間が過ぎていく。そのはずなのに、斜めに立つ太陽は時間の経過を感じさせてくれない。
ふつふつと腹の底で何かが煮えたぎるのを感じながら、その場にいた。
…………………………
───金曜日まで、あと4日───
「クロノアさん、また隣っすね!!」
満面の笑みで机を動かしながら隣にやってきたのはぺいんとだ。蝉の声もまだ少ない月曜日は、席替え当日の日だった。
席替え当日の月曜日、と言っても夏休みは土曜日から始まる。つまりこの席で過ごすのは、夏休み後を抜くと、この1週間のみだ。
「本当すごいね。もう何回隣になったかわかんないや(笑)」
くすり、と肩をすくめて笑ったのは自分、クロノアだ。彼とクラスは離れたことはなく、何度目かもわからない隣の席だ。 運がいいのか、悪いのかわからないけれど。
彼の隣になると、とても賑やかで楽しくなる。彼がいるだけでクラスは笑いの嵐が起こる。けれど、隣になると授業中に寝ている彼を起こす義務ができるし、ノートも写させてあげなければならない。
…少々嫌味のあるような言い方になったが、面倒臭いとは一度も思ったことはない。これは遠慮とか嘘ではなく、正真正銘の本音だ。
「クロノアさん、よろしくお願いします!」
「うん、よろしく。」
声の大きさに注意を促されたぺいんとは、照れくさそうに頭の後ろをかいた。
トラゾーとしにがみくんに関しては、どうも違うクラスになってしまい、会う時間といえば登下校と放課後のみだろう。
蝉の声は、窓側の席だと少し聞こえやすく、暑さを感じさせる。
……………
「じゃあ、隣同士でペア組めー。」
帰りのHR。LHRになると事前に告知されていたため知っていたが、話の切り出し方は酷く長いLHRになりそうだとでもいうような言葉に、心の中は既に疲れ切っていた。
それは自分だけでなく、他のクラスメイトもそうであった。
隣の席に座る彼に目線を移せば、相手はこちらに気づき、”よろしく”と捉えられる笑みをこちらに向けてくれたため、こちらも笑みを返した。
「その隣同士のペアで、夏休み課題をやってほしい。」
えー、と落胆する声。マジかよラッキー、と喜ばしげな声。だるっ、と面倒くさそうな声…。誰が発していたとしても、言葉を発した人のペアの人が気まずそうな顔をするだけだ。
「夏休み後に提出するペア課題は【感情】についてだ。」
───この世で一番難しい問題を渡されると知らずに構えていた自分が、何なのかは分からないけれど。