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ウィリアムという少年が朝自宅で起きると左足首の所に赤い円形状の痕があった。10時方向に下からファイブフィンガーあたりの所に真円の赤い痕があった。ウィリアムは湯湯婆と一緒に眠ったから口金の部分にずっと足首を置いてしまったのだろうと考え、何も気にはしなかった。
しかし、実のところは違った。宇宙人が夜の間に誘拐していたのだ。宇宙人はインバースと云う街に住んでいた。誘拐を実行した宇宙人には息子が居た。名をラジゴン=シヤオリと言った。ラジゴンの産みの親であるシヤオリさんは病弱な息子をいつも心配していた。インバースシティは医療があまり発達していなかったのだ。さらにシヤオリ家にはあまりお金が無かった。されど幸せに暮らしていた。
ここまで前振りをおいていたならもうお気づきの読者も居るだろう。ラジゴンは交通事故に遭ってしまった。重体である。元々病弱であったのも相まって、もう回復する見込みは無いと言われてしまった体内血液量が足りなくなってしまったのだ。この星には輸血と云う概念が無い。人を救うために他の人を傷つけると云う行為が非道徳的とされているのである。なので人体実験も捗らず、科学もチキュウ程は発達していなかった。しかし、人では無ければ良いので宇宙に人を飛ばすという方面には精通していた。
「ヒトの血を移植することができれば息子さんの命は助かるかもしれません。」
「ヒトってあのチキュウに居るヒトの事ですか!?」
「はい。そのヒトです。見目形も風俗も同じようで、血液も酸素を運ぶ為に存在しているようなので…」
「でしたらお願い致します。」
「しかし、まだ前例が無く…」
「いえ、構いません。息子は何をせずとも死んでしまう命…一縷の望みでもあるならば藁にでもしがみつく所存です。」
「さらば、チキュウに向かいましょう。ヒトは日の当たるところで生活しているようなので、日の当たらないところへ向かいましょう。」
私は命を受けてヒトを攫いに来た者。名前はまだ無い。ましてやこのような仕事をするのも初めてなもので…ヒト攫いというのは今までも片手の指で数えられる程はやっていたのだが、その件を全部実行していた方がご高齢で働けなくなってしまったらしい。つまり私がその達人の2代目ということになる。なので名が無いと言ったのには少々語弊がある。私はこの仕事を終えることができたならはれて師匠の名を襲名出来るのだ。そのためにもこの仕事は失敗出来ない。
家に侵入した。脆い素材で外界とを仕切っている。元に戻すのは教習通り、簡単だろう。
ヒトがベットの上でフトンを被りながら倒れている。このヒトというのは面白い。話には聞いていたが、頭に毛が生えているのである。このヒトは毛が短いので男なのだろう。患者も男であるから第一の条件はクリアしている。さすが諜報部だ。
「そちらは何時だ?」
無線が入った。ヒトというのは円をなぞるようにして時間を見るらしい。このヒトの家にもそれらしいものがあった。
短い方の棒を見る。
「-3/2です。」
良かった…液晶に表示されてるタイプのものは読むのが苦手なもので…教官は角の数で示しているなどと言っていたが『2』と云うものは角が4つもあるではないか。これが2を表すというのだから甚だ驚きである。
「24時か…5時になるまでには脱出しろ。」
「5時というのは何でしたっけ…」
「-5/2の事だ。」
「了解です。」
ヒトというのはおかしい生き物だ。何故、時を遡れないであろう筈なのに位相を負の方向へ動かして時を見るのであろうか。未来へ進むごとに堕落していくと云う意味だろうか。
さっさと抱きかかえて外の船に渡す。ヒトの代わりにセンサー付きの人形を置いておく。窓は、一旦元に戻しておこう。
「ほぉう。これがヒト……私も見るのは初めてです…」
「先生でもそうなんですか。」
「はい…この歳になってもまだ動物実験などというものが苦手でして…」
ラジゴン=シヤオリは大きな病院に移され、ウィリアムの横に寝かされている。重体で様々な器具を、付けられているというのに安らかな寝顔である。ウィリアムの方が環境の変化で麻酔がかかっているにも関わらず悪夢を見ているような顔つきだ。
「では早速施術を開始させて戴くかな…」
医者はウィリアムの左足首に丸い半径10mm程の太い管を刺す。普通なら刺さらない筈なのにダイラタンシー流体のようにズブズブと管が飲み込まれていく。タンクに赤い液体が濾過されながら溜まっていった。
「はぁ…ヒトの血液は赤色なんやなぁ…血色素が錯体のヘムを持っている蛋白質なのぢゃろうか…これから研究されるのが楽しみよのぅ…」
献血に使用した後、少しだけ研究でもするのだろうか。タンクの赫がシヤオリに注がれていく…………
ウィリアムはオッカムの自宅に送られた。ウィリアムは朝起きたら剃刀を使うのだろう。オッカムにある剃刀で顎を逆撫でするのだろう。逆オッカムの剃刀。
ラジゴン=シヤオリは体内の血が全て凝血し、体温調節がままならなくなり、八塩折之酒を呑んだかのように凍りついた。インバース・オッカムズ・レザー。