第二話 :知らない君を知っていく
「佐藤さんってさ、いつも本読んでるけどさ、何読んでんの?」
昼休み、教室の隅。
翔太は購買で買ったパンを片手に、芽の隣の席に腰を下ろした。
芽は一瞬、本から顔を上げる。そしてまた視線をページに戻した。
「……ミステリー。海外のやつ」
「へぇ、かっけーな。なんか、探偵とか好きそうな感じするもんな」
「……そう?」
芽の返事は短い。でも、否定はしない。
翔太は少しずつ、芽との会話の間合いを掴み始めていた。
答えが返ってくるまで、すこし待つ。無理に笑わせようとしない。
それが、この子にとっての“普通”なんだと気づいたから。
「そういや、茶道部なんだっけ? お茶とか点てたりするの?」
「……うん。静かで、集中できるから。好き」
「へー。俺、野球部だけどさ、あんまり集中とか得意じゃないかも」
翔太は、苦笑する。
「でも、バッターボックスでは、ちゃんと集中してるように見えるよ」
芽は、ぽつりと言った。
翔太は驚いて、顔を向ける。
「……見てたの?」
「帰る時、窓から見えたから。たまたま」
そう言って、芽は少しだけ、口元を緩めた。
翔太の心臓が、ほんの少しだけ早く脈打った。
知らないことが、たくさんある。
この子のこと、もっと知りたいと思った。
だけどその気持ちに、まだ翔太自身も名前をつけられていなかった。
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