第68話:市民ランクの階段
午後の教室。
水色のパーカーにベージュのハーフパンツ姿のまひろは、机の上の学習端末を覗き込んでいた。
教壇には緑のスーツに黒縁メガネをかけた教師が立ち、背後のスクリーンに「市民ランク制度」と大きく映し出される。
教師は落ち着いた声で説明を始める。
「市民ランク制度は、大和国の安心を支える大切な仕組みです。
行動や協賛で得点が加わり、ランクが上がると特典や優先配給が受けられます」
画面に五段階のピラミッドが表示された。
ランク・ホ:最低限の配給。
ランク・ニ:協賛野菜の優先配給。
ランク・ハ:娯楽やイベントの参加が優先される。
ランク・ロ:未来農園の果物、未来魚の刺身が配給される。
ランク・イ:未来住宅の抽選、優先医療の権利。
「協賛活動をするほど、安心が増えるのです」
教師は笑顔で言い切った。
休み時間、教室の片隅でまひろは友達と話していた。
友達は緑のシャツに濃いグレーのズボンを履き、真剣な表情で言った。
「うち、まだランク・ハなんだ。母さんが『もっと協賛ありがとうって言わなきゃ』って言ってる」
まひろは無垢な瞳を見開いて答える。
「ぼくの家はランク・ロだよ。昨日スーパーで“協賛トマト”買ったらポイントがついたんだ」
友達は羨ましげに口を尖らせた。
その夜、自宅のリビング。
ベージュのカーディガンに緑のエプロン姿の母が、タブレットに映る市民ランクの画面を見せながら言った。
「ほら、まひろ。今日も“協賛ありがとう”のコメントを忘れなかったから、ポイントが加算されたわ」
まひろは水色のパジャマ姿でコップの水を飲みながら首をかしげた。
「でも、もしランクが下がったらどうなるの?」
母は少し顔を曇らせたが、すぐに笑顔を作った。
「心配いらないの。大和国の制度は、安心を守るためにあるのだから」
暗い部屋。
緑のフーディを羽織ったZが、ランク別の市民データを映すモニターを見つめていた。
Zは低い声で呟く。
「安心の階段と呼ばれるものは、実際には縛りの段差だ。
誰もが登りたいと願うほど、足元は固く縛られていく……」
モニターには、「協賛ありがとう」と繰り返す市民のコメント数が、点滅するグラフで映し出されていた。
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