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第69話:ランクアップ
未来ホールの広間。
天井から吊るされた横断幕には大きく「協賛ありがとう! 安心の未来へ」と書かれ、緑色の布で舞台が覆われていた。
客席に座るまひろは、水色のシャツにベージュのパンツ姿。横にいる母は淡いピンクのブラウスに緑のカーディガンを羽織り、膝の上に手をそろえていた。
舞台の中央に立つのは緑のスーツに濃いフレーム眼鏡をかけた役人。硬い表情でマイクを握り、淡々と読み上げる。
「本日、ハ・ランクからロ・ランクへ昇格するご家庭を発表いたします。協賛ありがとうを日々実践し、安心を広げた成果です」
会場がざわめき、選ばれた家族が壇上に上がった。
父親は水色のネクタイに灰色のスーツ、母親はラベンダー色のワンピースを着て、緊張した面持ちで立っている。小学生の娘は黄色いリボンを髪に結び、観客に向かって深く頭を下げた。
役人は書類を見ながら言う。
「協賛製品購入回数 128回。安心動画の視聴時間 月平均47時間。地域での協賛ありがとう発言回数 年間312回。――この実績により、Bランクへ昇格です」
拍手が鳴り響き、会場の市民たちが口を揃えて唱和した。
「協賛ありがとう!」
その声の波に包まれながら、まひろは小さく呟いた。
「どうしてあの人たちだけ……?」
母は笑顔で答える。
「努力したのよ。毎日協賛ありがとうを欠かさなかったから。私たちも頑張れば、きっと選ばれるわ」
舞台の上では役人から記念品が手渡されていた。透明なケースに入った「協賛トマトの詰め合わせ」。ライトを浴びて赤々と輝き、会場の視線を集める。
一方、別室の管制室。
緑のフーディを羽織ったゼイドは、複数のモニターを見つめていた。そこには昇格した家族のデータが数字として表示されている。
「式典は見せかけの安心。だが、選ばれなかった大多数は羨望と不安を抱く。その気持ちこそが、さらなる協賛の力を生む」
ゼイドの低い声に合わせるように、モニターには会場の観客たちが再び立ち上がり、手を振りながら唱える映像が映った。
「協賛ありがとう!」
その声はホールを越え、街に響き渡る「安心の合唱」となっていった。