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やってしまった。
「ごめんなさい。」
私の口からそんな言葉が自然と出てくる。
「いいよ、もう知らないから勝手にしな。」
三年生の夏ニュージーランドに行くことが許可された私はパスポートを取りに行く、はずだった。
早退するはずだった七限目が終わり、掃除を始め、30分ほどで終わり、友達と談笑している時に気づいた。血の気が引く、とはよく言ったものだ。本当に血が全て私の体からなくなってしまったのではないかと思った。そして、体の節々が言いようがないような苦しさに襲われた。先生も忘れていたようで急いで私を帰してくれた。
完全に忘れていた。あんなに楽しみにしていたのに。
「ごめん、遅くなった!」
遅くなった所の騒ぎではない。車の中には無表情の母がいた。母も共働きで忙しい中来てくれているのだ。
「いいよ、どうせ間に合わないから。」
完全にキレている。
「ごめんなさい。」
家に帰るまで一時間。車の中でどう過ごしたかはよく覚えていない。ただ、たまに口から
「ごめんなさい」
という言葉がそれこそ、消え入りそうな声で漏れていたような気がした。
家に帰り、父も帰ってきて、やっと許してもらい、別日に行くことが決まった。
最近物忘れが多い。やらなければならない、委員会の仕事。学校や最近行き始めた塾の宿題。ポッケの中にボールペンを入れたまま洗濯に出してしまう。今まで、全くしなかったような物忘れが三年生の頃から増え始めていた。そんな自分が嫌いになった。そして、私が私を嫌いになる理由は物忘れや私のもはや生き方と言ってもいい性格の他にもたくさんあった。そのうちの一つが血液型だ。私はB型だった。血液型診断というのが一時期流行った。B型は少なくとも私が見た血液型診断ではいつもひどい描かれようだった。父はB型で、母はA型。そして、母は父に文句を言う時こういうのだ。
「これだからB型は嫌い。」
私だってB型だし、血液型は性格には関係ないという論文だってあったはずだ。実際母は血液型で人を馬鹿にすることに、否定的な意見を持っていた。しかし、父に対して影で文句を言う時はB型を理由にしていた。まるで、私に言っているように感じた。物忘れが多く、馬鹿みたいな性格をしていて、おまけにB型。血液型は選べるわけでもない。もちろん性格もそうだと思う。母に言った。
「血液型で性格決めつけるのやめてよっ!」
「空気読まないのはB型の典型でしょ!?何が悪いの!?」
私の口から言葉が出ることはなかった。ショックで呆然としていた。
どうやら、私は空気を読まないらしい。
誰にも嫌われないように人に話を合わせ、嫌いなものを把握し、〈敵〉を作らないように努めてきた私の努力を全て否定された気がした。いや、否定された。
嫌いだ。私の性格も考えも、血液型も物忘れが多いところも、誰にでも気に入られようとするところも、少しショックを受けるとすぐ言い返せなくなるところも。
もう、疲れた。
その日の真夜中、久しぶりにカッターを持った。
「今日は本気そうだね?」
久しぶりに聞いたあの声。なぜか、その声を聞くと落ち着く。
「うん、やるよ。」
カッター左手首に当てる。心の中でカウントダウンをする。
5、4、3、2、…
1、と心の中で唱えようとした時携帯の、夜の帳が下りた暗い暗い部屋の中では明るすぎるほどに光だし、電話がかかっていることを知らせる音を鳴らした。画面を見ると雪子からだった。
なんてタイミングなんだろう。
それから、日付が変わるまで雪子と話し、次の日も学校だからと電話を切った。
「また明日ね。」
という言葉を最後に。
「また、明日。ねぇ。アホみたい」
やはりどこかで聞いたことがある声。懐かしさを覚える声。
「ねぇあなたは…!?」
驚いた。死神がいるであろう方向を向くと今までは一度も見えなかった死神の姿が見えた。いや、見えかけた。死神の姿を捉えた途端、私の意識は闇に沈んだ。
朝、目が覚めるとベッドの中にいた。寝てしまったのだろうか。母に聞いても私はどうやらちゃんと自分でベッドに入ったようだった。昨日の死神の姿。見えそうで見えない姿。どこかで見たことのあるような姿。あれは、夢だったのだろうか。