テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#シェイプシフター
柊遊馬
4,994
#戦国時代
眠狂四郎
284
#戦国時代
眠狂四郎
196
#軍師
眠狂四郎
153
「本気でおっしゃっておられるのですか」
「そうだ。」
「二億ディナールですよ。」
「そう申しておる。」
「もし回収できなければ、私は破産です。」
「できなければ、交易権を含めたこの話は他へ持っていく。」
「……お待ちください。」
富豪ヨセフは額の汗を拭った。
「できないとは申しません。ただ、その……担保と申しますか……。」
マエクスは王の印綬をさし出した。
「ここに王の印綬がある。必要なら預けよう。」
ヨセフは飛び上がるように首を振る。
「滅相もございません! そんなものを預かったと知れたら、私の首が飛びます!」
マエクスは思わず苦笑した。
「では、頼む。」
「……承知いたしました。御用立ていたします。」
「助かる。」
ヨセフが深々と頭を下げて退出すると、
マエクスはすぐに控えていた侍従へ視線を向けた。
「次の方を。」
扉が開き、新たな商人が入室する。
マエクスは先ほどと変わらぬ穏やかな笑みを浮かべた。
「よく来てくださいました。」
「実は四億ディナールほど、ご用立て願えませんかな。」
シャチトルはアントンとともに、眼下に広がる港を見下ろしていた。
「まさか……これほどまでとは。」
各地のイージプ艦隊を率いた王族たちが、次々と港へ入ってくる。
色鮮やかな帆が海を埋め尽くし、黄金の船首像が陽光を反射して輝いた。
陸路からは、豪奢な甲冑に身を包んだ騎兵隊が整然と城門をくぐっていく。
その光景は、一つの国家ではなく、諸王国が集結した大連合そのものだった。
イモホテップが静かに口を開く。
「いかがですかな、アントン殿。」
「見事だ。」
アントンは満足げにうなずく。
「これだけの軍勢が集えば、ライナーも無益な戦は避けるだろう。」
「西は私が、南はシャチトル女王が治める。」
「新たな秩序の始まりだ。」
イモホテップは静かに問い返す。
「では、決戦は一度だけでよい、と。」
「ああ。」
アントンは港から目を離さなかった。
「グラン王国は先の内戦で二つに割れた。」
「今なお、兄弟や親子が敵味方に分かれて戦っている。」
「ならば、初戦で圧倒的勝利を収める。」
「その戦果を王都へ伝えればよい。」
「民は勝者を望む。貴族もまた勝者へ従う。」
「私は征服者としてではない。」
「迎えられる王として王都へ入る。」
そのとき、情報参謀プラスが静かに入室した。
「ご報告があります。」
「申せ。」
「レピダスを帰国させた折、元老院派の者たちから接触がありました。」
「王都で反乱を起こすゆえ、支援してほしいと。」
アントンは表情を変えない。
「それで。」
「資金を渡してあります。」
「ご苦労。」
「こちらが協力者の名簿です。」
羊皮紙を受け取ったアントンは、一人ひとりの名を眺め、小さく息を漏らした。
「……なるほど。」
「ライナーも粛清が甘かったか。」
「あるいは、急ぎすぎたか。」
イモホテップは名簿を見つめながら静かにつぶやく。
「どちらにせよ、人の心までは統一できなかったということですな。」
アントンは羊皮紙を丸める。
「戦は剣だけで決まるものではない。」
「国は、人の心が離れた時に滅びるのだ。」
ライナーは、机いっぱいに積み上げられた借用証書を見つめ、苦笑した。
「私は世界一の借金王になったのではないか。」
「おそらく、そのようにございます。」
マエクスは涼しい顔で答える。
ライナーは一枚の証書を手に取った。
「ジュリアス殿の遺言もある。」
「市民へ約束した金は支払わねばならん。」
「アントンが奪ったとしても、それは言い訳にはならぬ。」
「私が肩代わりする。」
「……いずれ請求書はアントンへ送りつけますが。」
マエクスの一言に、ライナーは思わず吹き出した。
「それで、この金をどう使う。」
「敵を切り崩します。」
「敵を?」
「味方を増やすわけでなく?」
「はい。」
マエクスは迷いなく答えた。
「今、必要なのは兵ではありません。」
「敵将が安心して寝られなくなることです。」
「裏切る者、中立を望む者、戦を避けたい者。」
「その者たちを一人でも増やせば、それだけ敵は弱くなります。」
ライナーは静かにうなずく。
「なるほど。」
「勝てば総取りか。」
「左様にございます。」
マエクスは歳若いライナーの頭の回転の速さが好きだった
「初戦でアグリ殿が勝てば、中立勢力は一斉にこちらへなびくでしょう。」
「戦が終わったら、かねてからアグリの言っていた浴場を建ててやれるな。」
二人は顔を見合わせ、小さく笑った。
しばらくしてライナーが尋ねる。
「そのほうの働きに、私は何を報いよう。」
マエクスは一拍置き、いつもの穏やかな笑みを浮かべる。
「お金でお願いいたします。」
ライナーは声を上げて笑った。
「欲のない男だと思っていたが。」
「国家の金と、私の金は別でございます。」
コメント
1件
第35話、めちゃくちゃ面白かったです!マエクスが二億、四億と平然と借りていく場面からもう引き込まれました。「お金でお願いいたします」のオチ、笑いました。国家の金と自分の金は別って、その潔さが最高です。 アントンとイモホテップの会話も渋い。戦略の描き方が重厚で、「人の心が離れた時に滅びる」という台詞が胸に残りました。この世界の政治力学、すごく丁寧に組み立てられていますね。続きが気になります!