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外から聞こえる鳥の声で、ザインは静かに目を覚ました。
窓の外には青空が気持ち良く広がっている。
……その反面、身体はどことなくダルかった。
「……あれ? いつの間にか、眠っちまったのか」
どうやら食卓の下で、薄い布団に包まって眠っていたようだ。
近くの扉をおそるおそる開いてみると、そこではメルヴィナがソファの上で眠っている。
アリアの姿は――そう思ったところで、彼女が階段から下りてきた。
「あ、情報屋。おはよー」
「おう、おはよう。昨日はいつの間にか、眠っちまったんだな」
「そうだねぇ。ようやくガルドさんも見つかったし、緊張が解けたのかもね」
それだけでもないような……とザインは思ったが、とりあえず納得することにする。
実際に眠気の方は、すっかり取れていたのだ。
「お前の方は……何だか眠そうだな?」
「うん。フィオナさんと話し込んじゃって、徹夜だったからねぇ」
「おいおい、フィオナさんに無理をさせるんじゃないぞ?」
「あたしの心配、どこー?」
アリアは目を軽くこすりながら、そんな不満を口にする。
何となく、庇護欲が湧いてくるものの……庇護するには強すぎるヤツだからな、と思い直す。
「今日はお昼前に出発だって。みんなで軽く冒険しよ~って話になって」
「ふーん? まぁ、天気も良いしな」
「そんなわけで、あたしは少し寝てくるねぇ。情報屋はメルちゃんと一緒に、準備しておいて~……」
「お、おう」
アリアは欠伸をしながらふらふらと、応接室に入っていった。
ザインは昨晩の食器を片付けて、洗い物を始める。
……しばらくしても、メルヴィナは起きてこなかった。
てっきりアリアが、寝る前にメルヴィナを起こしてくれるものだと思っていたが――
「きゃーっ!!?
アリアさん、どこを揉んでるんですかッ!!?」
「は、はぁ!?」
ザインが慌てて応接室に行くと、ベッドの上で、メルヴィナに絡みついているアリアの姿があった。
メルヴィナの髪は乱れていて、突然現れたザインを前に、涙目になっている。
「ザインさん、助けて……!」
「お、おう……。
えぇっと、アリアの身体を――……って、掴めねぇ!?」
それは当然、アリアの異能『対象化拒否』がそうさせているのだ。
アリア自身が眠っていても効果を及ぼす、実に厄介な異能……。
「えっと、メルヴィナの方を……触っていい?」
メルヴィナはおどおどしながら、アリアに耐えきれずに承諾した。
ザインはメルヴィナの身体を軽く持ち上げて、ゆっくりと引きずって動かす。
するとアリアの身体もそれにつられて動き、そして……ソファの下に落ちた。
「――んべっ!?」
アリアは変な声を上げて一瞬だけ起きたが、ソファの上に戻って再び眠り始めた。
その傍らにはメルヴィナと、彼女の肩に手を回すザインの姿が――
#僕のヒーローアカデミア夢小説
……このあと、メルヴィナの平手がザインの頬を襲った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
フィオナの部屋には明るい日差しが射し込み、窓からは気持ちの良い風が入ってくる。
華奢な椅子に座ったフィオナの前には、大きな身体のガルドが床に座っていた。
「――フィオナ様、やはり眠そうですね」
「うふふっ。徹夜なんて、しばらくぶりですからね」
聖女であることが判明して以降、覚えることや考えることが多くなり、眠れなくなる夜も多かった。
しかし最近は教団に絡んだ問題も少なく、ガルドもいたため、しっかりと眠れている。
「オレたちが眠っている間に、どのような話をされていたのですか?」
「……昔話、かしら? 実はアリアさんと誓約を結んでいるから、詳しい内容は話せないの」
「誓約まで……したのですか。それではオレは、深くは聞けませんね。
ただ――……あの3人は、フィオナ様に害を為す者ですか?」
真面目な表情のガルドを見て、フィオナは優しく答える。
「ええ、敵ではありません。私たちを害するということも無いでしょう。
アリアさんは彼女の目的のため、私たちが必要……ということは間違いありません」
「……オレも、なのですか?
フィオナ様なら分かるのですが、何でオレが……」
「ガルドの場合は、単純に戦闘力が欲しいから。
探せば他にもいるかもしれませんが――私が聞いた限り、あなたが打ってつけだと思いますよ♪」
「はぁ……。強いだけの連中なら、他にもいるでしょうに」
ガルドは軽く横を向いてから、溜息を漏らした。
強さが認められるのは悪くないことだが、仲間になるというのは別の話だ。
「それはそれとして!
今日、アリアさんたちと冒険することになったんです!」
「冒険? 森の中を、ピクニックでもするんですか?」
「はい。森の奥の、滝を見に行きましょう♪」
その言葉に、ガルドは顔を青くした。
そこには巨大な、この付近のヌシの魔物が棲んでいるのだ。
近付かなければ襲ってくることは無いが、水源である川の中流に位置しているため、迷惑に思う人たちはいる――
「まさか、討伐をするとか……?」
「できるなら、それも良いですね♪」
フィオナの明るい笑顔に、ガルドは困りながら顔を手で覆った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
2時間後、アリアは目を覚ました。
応接室を出ると、ザインとメルヴィナは気まずそうに、それぞれ外に出る準備をしている。
「あれ? 何かあったの?」
「いやぁ、実は――」
「何もありませんッ!」
メルヴィナは声を大にして言うと、アリアの後ろに寄ってきた。
そこからは何をするでもなく、ザインと距離を置いている。
「ダメだよ、情報屋。メルちゃんが可愛いからって、ちょっかいを出したりしちゃ~」
「それ、お前が言う……?」
「……そこだけは、同感です」
「えぇー? ケンカしてるの? してないの?」
3人が喋っていると、2階からガルドがゆっくりと下りてきた。
身体が大きいので狭くるしく見えるが、慣れたもので、その動きはスムーズだ。
階段を下り終えると、アリアを一瞥してから台所に入っていった。
フィオナから何か聞いたのか……とアリアは思ったが、それよりも、台所から流れる香りの方に注意がいった。
……小麦粉を焼いたような、素朴な香り。
それを感じながら、アリアはメルヴィナを慰めた。
その間にザインはふらっと外に出て、近くの切り株に腰を下ろす。
しばらくすると、アリアがひとりでザインの元を訪れた。
「……何か、ごめん」
「ん? あー、メルヴィナから聞いたの?」
アリアはこくりと頷いた。
悪いところがあれば、たまには素直に認める。
それが我らのアリアちゃんだ……ザインはそんなことを思った。
「まぁ、メルヴィナも気が動転してるだけで……。すぐ忘れるだろ。
……忘れてくれるとイイナァ」
ザインは遠くの空を、少し悟ったような顔で眺めていた。
アリアは同じ空を見た後、改めてまわりを見てまわる。
昨日は中に入るまで、あそこのテーブルで話をしていたっけ――
「そういえば情報屋の昔話って、昨日初めて聞いたんだよねぇ。
……いつか、何があったか教えてくれる?」
「――ふっ。別に、話すことでもないさ」
「そう?」
「でも、アリアがどうしても聞きたいっていうなら――」
「よーし、じゃぁおやつ取ってくるね! フィオナさんが、何か焼いてるみたいだったし!」
ザインは続きを話すことは……やぶさかではなかったが、アリアは一瞬の間に去っていった。
アリアの方を振り向いたザインの視線が、完全に宙を泳いでいく。
「――……ははっ。あははははっ♪」
ザインはひとしきり笑ってから、改めて空を見上げた。
「まったく。そういうところが、本当によく似てるんだよなぁ……」
しばらく空を見上げたあと、ザインは大きく伸びて、丸太小屋の中に戻っていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――昼前に出発して、1時間もすると大きな滝に辿り着いた。
広々とした青い空の下、高くそびえる巨大な岩。
ところどころに生えた苔と、力強く流れる清らかな水。
激しい音と圧巻の迫力が伝わる中、細かい水飛沫が霧のように飛んでいく。
「おー、すごいねぇ」
「私、滝は見るのが初めてです……!」
アリアとメルヴィナが景観に目を奪われている中、ガルドが注意を促す。
「不用意に近寄るなよ。滝つぼには、ここのヌシが棲んでいるからな」
「今日は、それを討伐するってことか?」
ザインの言葉に、ガルドは静かに頷く。
ガルドとしては、敢えてそんな危険を冒さなくても……とは思ったが、フィオナの要望であるなら仕方が無い。
……実際、討伐の要請は近隣の住民からも相談されていたのだ。
「それではみなさん、私が支援魔法を掛けますね。いわゆる、身体強化というものです」
「あたしは要らないので、他の人に手厚くお願いします!」
「わかりました。あとは、怪我をしたらすぐに教えてくださいね」
「はーい♪ ……ところで、ここのヌシってどういう魔物なんですか?」
「なぁに、騒げばすぐに出てくるさ。……ほら、もう出てきたぞ?」
ガルドは滝つぼの中を、軽く指差した。
滝つぼは想像以上に広く深く、何かの目がギラリと光った。
そしてゆっくりと、辺りに何かが這い出てくる。
「あれは……触手? うーん、また触手かぁ……」
「相手はタコ、かぁ。……今回のは、柔らかそうだけどね」
ふたりの脳裏には、監獄があった街での記憶が蘇ってくる。
ギデオンとヴィクトリアが変容した魔物……あれにも、触手のようなものが大量に生えていたのだ。
「――今回、本体はアリアさん以外で倒してください。
アリアさんは、攻撃するなら足だけにしてくださいね♪」
その提案に、アリア以外はぎょっとした。
ザインとメルヴィナは、アリアがいればすぐに終わるのに――と思った。
ガルドは、危険な相手に対して全力でいかないとは――と思った。
そしてアリアは――
「たくさん刈ったら、今日はたこ焼き……ってこと!?」
その声に、フィオナが冷静な声で答える。
「すいません、アリアさん。
……青のり、今、切れてるんです」
ツッコミどころが満載の中、ザインはとりあえず……1つだけツッコんだ。
「食う気かよ!!」
――悲しいことに、それが戦いの合図となってしまった。