※本作は相思相愛のお話ではありません。苦手な方はご注意ください。
「好き」だとか「付き合おう」だとか、そんな明確な言葉はなく、いつの間にか俺達は気まぐれにキスをし合うような関係になっていた。
長年の関係は一体何だったのかと疑ってしまうほど違和感や気恥ずかしさは微塵もなく、その代わりに初々しい華やかな色も存在しなかった。
決して愛がないわけじゃないけど、互いのそれは生温くて、俺達は日々の空虚さを埋めるかのように求め合い奪い合う。
俺は束縛されたり自由を奪われるのが大嫌いだ。だから女の子との関係はいつも長続きしなくて、いつからかその面倒さに興味すら沸かなくなってしまった。
もちろん、ファンの子たちは可愛いと思うし、心の底から大好き。でも、それとこれは別。
だからこそ、束縛も依存もしないであろう、自立したこの男に惹かれたのかもしれない。
ソファに腰掛けている男に目をやると、何やらスマホでスケジュールを確認しているところだった。そういえば明日、オフだったよな。ということは、さっき風呂も入ってたし、そろそろお誘いがくる頃かな。
同性同士の性行為は当然、無理やりやっているようなものである。受け入れる側の負担というのは、個人差はあろうと必ずあるもので、仕事に支障が出るといけないから、涼太が翌日オフの日しか俺達は身体を重ねない。明確に話し合いをしたわけではないけど、初めから互いにそう理解していたと思う。
舘「……佐久間」
佐「ん、なーに」
ソファに座り込んだままこちらへ顔を向けてきた男の表情は、普段より幾分か気が抜けているように見えた。
ふわりと乱れた黒髪に、鋭さが少し欠けた瞳。気の利いた返しをしなくていい現状に腰を据えた思考が、ぼんやりとしているのが伝わってくる。
カメラの前だけじゃなくて、外に出てるときはいつもあれだし。ほんとは疲れるでしょ。
その場から動かない俺に対して、涼太はゆっくりと立ち上がりダイニングチェアに座る俺の方へ向かってきた。
その瞳は足を進めるごとにだんだんと見慣れたものになっていく。ろうそくの蝋が溶けていくように、灯った光は落ちていった。
キスも行為も嫌いじゃない。男同士だって別に嫌悪感も生まれなかった。普通に気持ちいいし。
ただ時折、突然興ざめするというか、「なんでこんなことしてんだっけ」ってなっちゃうことがある。
そうなると思考だけが冷めていって、行為に高ぶった体温だけが上昇していく不思議な感覚に身を包まれながら、俺の下で息を潜めるように鳴く涼太に容赦なく欲をぶつける。
酒に思考を浮遊させられたかのようにぼんやりとそんなことを思い耽っていると、いつの間にか俺の前まで来ていた涼太が輪郭に手を沿わせるように触れてきて、意識は現実に呼び戻された。
薄暗い瞳は熱を含んでぐらぐらと揺れている。いつもの気高さや威厳のような雰囲気は微塵もなく、その姿はどこか弱々しくさえ見えた。
……あー、キスしたいんだろうな、これ。
互いに歳を取って大人になった今、涼太は隠し事が上手くなったと思う。汚れていったわけではないけれど、嘘をつくことにも以前より躊躇いがなくなった。
それなのに、俺の前だけはいつも素直に感情をみせてくれる。元々の性格もあってか、なかなか言葉にはしてくれないけど。
今だってそうだ。きっと早く熱を交わしたくて仕方がないのに、俺が以前言った言いつけを従順に守っている。そんなの破ったところでどうってことないことぐらい、分かってるはずなのにね。
頬に触れていた涼太の指先が焦らしに堪えかねたように首筋へと降りていった。
涼太のこの表情、好きなんだよねー。でもそろそろ限界かな。
舘「…………さくま」
佐「よし」
そう言ったとほぼ同時に、噛み付くような、殴りかかるような欲に塗れたキスが降り掛かってきて、俺は思わず笑ってしまいそうになった。
どこで学んだのかは分からないけど互いに慣れきっている深いキスを繰り返していく。角度を変えて、舌を絡めあって、唾液が口内で混ざり合っていく。
呼吸を奪うように俺のペースに巻き込んでいくと、涼太は苦しそうに俺の胸元を叩いてくる。息苦しさに耐えかねたように漏れ出す喘ぎ声が、俺の聴覚を刺激した。
次第に酸欠になって思考は回らなくなっていき、じわじわと涙目になっていく。俺を叩く手の力が弱まってきた頃にやっと唇を離してやると、涼太は乱れきった呼吸を急いで整えるように呼吸を繰り返した。
毎回こんな苦しくなるまで離してやらないのに、涼太は変わらずキスを求めてくる。被虐性がくすぐられるのか、一つの線引みたいな儀式的なものなのか。なんだっていいけど。
こんなに溺れちゃって、ほんと、可哀想な奴。
椅子に座ったままの俺が見上げているはずなのに、支配されているのは俺を見下げている涼太だという事実に目眩がする。
どうしようもないね、俺ら。
何か言葉をかけることもなく涼太の手首をとって寝室へ向かうと、随分と駆け足になった男の脈が伝わってきて名前のないような感情が沸き立った。
佐「脱いで」
マットレスの上に座り込んで今度は俺を見上げている涼太に向かって、いつもより起伏のない声で俺はそう言った。
穢れのないような白いシャツのボタンをひとつひとつ外していく涼太はどこか扇情的で、俺が手を離したその瞬間にこいつには別の相手が現れるんだろうと、その姿をじっと眺めながら思った。
二人の間には、甘い言葉もあたたかな空気も存在しない。なぜか諦めに似た表情を浮かべながら大人しく俺に押し倒される涼太と、ぼんやりとした感情を抱えて靄のかかった思考のまま涼太を抱く俺がいるだけ。
佐「準備してんね」
舘「いいから、はやく抱けよ」
いつも初めは強気に噛み付いてくる。普段より幾分か乱暴な言葉で、わざと俺を苛立たせるように、煽るように。
初めて身体を重ねた日からずっとそうだ。ずっと涼太は、俺に暴力的に抱かれるのを待ち望んでいる。強すぎる快感に呑まれて欲に溺れて自分の輪郭さえ見失って、現実との境界も曖昧になっていって、そこでやっと、俺達は自由になれるのだから。
佐「難しいねー」
舘「……なにが」
佐「んー? 全部だよ」
そう言い切ると同時にほぐれきったそこへ自身を沈ませると、突然やってきた圧迫感に涼太は呻くような声を漏らした。
顔を仰け反らせながら弾けるような快楽に耐えて、唇を噛んで嬌声をあげないように必死になっている。握りしめたシーツが波を作って歪んでいく。
全部が入ったところで動きを止めると、涼太は仄かに不思議そうな顔を浮かべてこちらへ目をやってきた。
あぁ。少しのやさしさも、些細な気遣いも、涼太には必要ないんだったね。
限界まで引き抜いた自身を苛立ったように最奥へとぶつけると、涼太は背中を反らせて吐息とともに熱っぽい声を吐き出した。そうそう、そういうのもっと聞かせてよ。なんでいつも我慢しちゃうんだよ。
快感を求め、ガツガツと内壁を抉るように腰を揺らしながら、俺の下で悦に浸ったように快楽に酔い痴れている涼太をじっと見つめた。呼吸のためにだらしなく開いた口の端からは唾液が伝っていて、乱れきったその姿に熱は膨張していった。
舘「ぁあ゛っ、ん、っだぁ、んぅ、っい、ぁ、っ」
佐「んは、きもちーね」
舘「っは、っぁ゛まっ、っで、い゛く、っんぁ、く、る゛っ」
佐「あ、まだ駄目だよ。りょーた」
そう言ってその根本を無遠慮に掴むと、俺は腰の動きを加速させた。
俺の手を離させようと抵抗してくる涼太の右手には全くと言っていいほど力が入っておらず、もう今のこの男は俺の支配下なのだと一瞬で理解した。
俺の「まだ駄目」という言葉を飲み込んだ涼太は高まりきった快楽に従順に溺れている。荒ぶるように身体を震わせて、過度に与えられた快感を逃がそうとしているものの、そんなことをしたところで意味はなく、ただ瞳に薄い水膜を作りながら藻掻くように喘いでいる涼太を俺は見つめた。
行為中、涼太は俺の名前を呼ばない。
それは自分を抱く相手なんて誰でも良いという思いの現れなのか、それとも同僚に抱かれているという現実から目を逸らしたいのか。
その理由を聞く間もなく時間はどんどん過ぎていって、それは当たり前のことになった。
舘「や、っら゛、はな゛ぁっせ、っん、んぃ」
佐「だーめ。まだ『待て』だよ」
その一言に反応したように内壁がぎゅうぎゅうと締め付けてきて、俺は突然の収縮に呑まれてしまいそうになり思わず顔を歪めた。
ほーんと涼太、こういうの好きだよね。
痛みが快楽を上回らない程度の力でそこを握り、腰を前後に動かしながら耳元に口付けをする。
聴覚を刺激するようにわざとらしい言葉を吐き出すと、涼太の瞳に浮かんだ涙がこぼれ落ちて汗で湿った頬を伝っていった。
佐「涼太が男に抱かれて喘ぎ散らかしてるなんて知ったら、ファンの子達どう思うかなー」
舘「ん゛っ、んぁ、な゛に、いっ、て、っ、んぁ、あ゛っ、」
佐「国王とか貴族とか言われてるけど、ほんとは苛められるのが好きな、ただのわんちゃんだもんねぇ、舘様」
舘「っあ、んっ、ぁっ、や゛っ、めぇ、っろ、ぁ、っん゛」
佐「ん、なにが『やめろ』なのー? 『もっと』の間違いでしょ」
あー、これ指の痕残っちゃうなーって自分でも分かるくらいの強さで逃げようとする涼太の腰を片手で掴んで引き寄せた。
乱暴に、暴力的に高まった熱をひたすらにぶつけた。その度に涼太は快楽に溺れきった声を上げて、生理的に浮き出た涙を流す。
自身に限界が近づき始めて俺は徐々にそれを握っていた手の力を緩めていった。そして無理やり抑え込んだ欲を再び煽るように、先走りで濡れたそこを刺激した。
舘「や゛っ、あっ、んぁっ、ど、っちも゛、っん、あっ、っぁ」
佐「どっちも気持ちいでしょ。だてさま、もうどろどろだねぇ」
舘「まっ、て、や゛ばっ、、ぁ゛、い゛っく、まっで、い゛っちゃ゛」
佐「んふ、いーよ、イって?」
俺の声がコマンドになっているかのような従順さで涼太は嬌声を上げて果てた。
握っていたせいで溜まっていたのか、白濁はいつもより幾分か量が多く、涼太自身の腹を汚していった。そんな視覚的な快楽や果てたことによる強い収縮にあてられて、高まった熱を涼太の中で放った。
ほんとにこれでいいのかなー、なんて疑問を抱いても、目の前の光景が全てで。
言葉でいじめて、熱を穿って、手荒に抱く。
そんなどうしようもないような行為で、涼太は満足してる。涼太は”それ”を欲している。そして”それ”に俺の存在は含まれていない。
身体は疲れているはずなのに今日はなんだか眠れなくて、俺は布団に包まっている色白な男を見つめていた。
微かなカーテンの隙間から覗く空は、徐々に明るくなり始めている。
昨夜酷使したであろう男の喉を指先でそっと撫でるように触れる。きっと目覚めたら喉の痛みに苛まれるだろう。
ごめんね、涼太。そう思いふわりとした黒髪をやさしく梳くと、無視していたはずの感情が湧き上がってきて、俺は思わず目を瞑った。そして、何度も心のなかで繰り返した言葉を反芻した。
名前も知らないような他の男に涼太が抱かれるくらいなら、俺が酷い男を演じて手荒に抱く方がいい。
健やかな涼太の寝顔を眺めていた視界が、突然ぼんやりし始めて、熱くなった瞳から一滴の涙が頬を伝った。
あれ、もう泣くことなんて滅多になくなったのに。
労わるように髪を撫でる手をそのまま添えて、俺は涼太に触れるだけのキスをした。自己満足にも至らないそんな些細な行為は、静かな夜に漂う寂しさを浮き彫りにするだけだった。
涼太、おれ演技上手くなったでしょ。
ちゃんと求められてることに答えられるようになったんだよ。
起こしてしまわぬように、俺の思いに気付かれてしまわぬように、話しかけたい言葉を脳内に留めて木霊させた。
心のなかで何度も名前を呼んだ。俺の名前を、呼ぶことのない男に。
佐「ねぇ涼太。俺、いつまで酷い奴演じればいい?……」
輪郭を伝って落ちていった涙が、白いシーツへと沈んでいった。
白みはじめた世界の中、俺達に夜明けはまだ来ない。
コメント
3件

今まで❤️右、あんまりだったんですけど、これめっちゃ好きです!!!

サイコーすぎます!リクエストで舘様が総受けでみんなからくすぐりプレイをされるお話をかいてほしいです!よろしくお願いします😌