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部屋を出た拓人は、地下駐車場に止めてあった黒いセダンに乗り込んだ。
ホテルを出発すると、立川通りを南下して、日野橋交差点を左折する。
甲州街道を経て、国立府中インターから中央道に乗った。
(店は、長い事留守にしてるし、一度顔を出すか……)
右手のビール工場と、左手の競馬場を視界に捉えながら、拓人の運転する車は、新宿方面を目指す。
道は空いていて、車は順調に首都高速四号線へ入り、新宿で降りた。
一般道に入ると、渋滞は避けられない。
拓人は、イラつきを抑えながらも運転していると、渋谷の円山町にある、自身がオーナーを勤める女性専用風俗店『Pleasure Garden』に到着した。
ラブホテルが建ち並ぶ中に佇む、デザイナーズマンションを思わせる、シンプルな建物。
格子状の黒い枠の中にコンクリートを打ちっぱなしにしたような外観と、エントランスの横には、小さく『Pleasure Garden』と記されている。
来店する女性が入りやすい雰囲気にしたのが、拓人のこだわりだ。
この建物を、普通のマンションと勘違いする人も多いらしい。
約二ヶ月半振りに店に戻ってきた彼は、短く息を吐き出した後、店内に入っていく。
「オーナー!」
カウンターで店番をしていた支配人の男性が、久々に現れた拓人を見て瞠目させている。
「久しぶりだな。しばらく留守にしていて、悪かった」
「いえ、お元気そうで何よりです」
「…………俺が留守の間、何か変わった事はあったか?」
拓人は、ロビーをぐるりと見渡し、支配人に問い掛ける。
「相変わらず、性欲を満たしたい女性客で繁盛してますよ。ですが、先日、オーナーの事を以前からご存じの女性が来店されまして……。オーナーが不在の旨を伝えたところ、すぐにお帰りになりました」
「…………マジか」
拓人は怪訝な表情を覗かせる。
支配人が言う女性は恐らく、拓人が自身の店を持つ前、男娼をやっていた頃に、よく彼を指名した主婦の女だろう。
夫に内緒で女風に通っていた女は、後に夫に尾行され、拓人は主婦の女の浮気相手と勘違いされてボコボコに殴られた事があった。
(あの主婦、どこで俺が自分の店を持った事を知ったんだろう……)
拓人が自分の店を持つ事は、以前、男娼として働いていた店でも伏せていた。
厄介な女がここに来店、それに拓人は、まだ闇バイトの主犯格に追われている立場である。
「支配人。悪いが、またしばらく店を空ける。いつ戻るかは未定だ。引き続き、よろしくな」
「承知いたしました。スタッフ一同、いつでもオーナーが戻ってくるのを待っております」
支配人が丁寧に一礼をするのを見届けた拓人は、動揺した心に蓋を被せ、颯爽とした足取りで店を出た。