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まだ立川へ帰る気になれない拓人は、愛車で外堀通りを御茶ノ水方面に向かって走っている。
(俺だって、本気で好きになった女を抱いた事……一度だけあるんだけどな。まぁあれは仕事のようなモンだけど……)
ホテルを出る直前、優子に言われた言葉を思い出し、眉間の皺を深める。
水道橋駅を通り越して直進すると、御茶ノ水駅の手前で左折し、大きな建物と、拓人が走っている道に跨がるように広大なパーキングエリアが見えてきた。
この周辺で一番大きい病院、尽天堂大学病院。
ちょうど大学病院前交差点で赤信号に引っ掛かり、彼は、ゆっくりと車を停車させた。
拓人が前方を見据えながら信号待ちしていると、目の前に男女のカップルが横断歩道を渡っていた。
髪が長めで、顔つきと眼差しが鋭い男性と、顎先で切り揃えられた、ベージュブラウンの艶髪を持つ、痩せた女性。
女性は体調が優れないのか、濃茶の瞳は潤み、面立ちが青ざめているように見えた。
男性は気遣っているのか、華奢な肩を抱いている。
(…………え?)
女性の方に、拓人は見覚えがあった。
「…………あれって…………瑠衣……ちゃ……ん……。何でこんな所に……?」
ゴールデンウィークが終わる直前に、拉致監禁されていたところを救出した女性、元娼婦の九條瑠衣だった。
彼女と最後に会ったのは、それ以来だが、瑠衣は当時よりも、さらに痩せ細り、カップルは、横断歩道を渡り切ると病棟へ向かっていく。
一緒にいる男性は、彼女が『先生』と呼んでいる恋人だろう。
「そっか……。瑠衣ちゃん……『先生』に…………大切にされてるんだな……」
寄り添う男女の背中を見ながら、感傷に浸るうちに信号が青に変わると、拓人は、瑠衣への思いに蓋をするように、アクセルを静かに踏み出した。
***
瑠衣と初めて会ったのは数年前。
彼女が娼婦として、赤坂見附の高級娼館『Casa dell’ amore』に来たその日、処女だった瑠衣を抱いた拓人。
『中崎さん……ありがとうございました。する前は緊張して……怖かったけど……色々と気を遣って頂いて…………中崎さんが初めてのお相手で良かった……です……』
行為の後、彼女の可愛らしい容姿と、初々しい仕草、唇から零れる言葉に、彼は胸の奥が締め付けられる思いに駆られ、彼女に惚れてしまった。
昨年十一月、色香が漂い、美しさに磨きが掛かった女性に変貌した瑠衣と、四年の時を経て再会。
彼女と一緒にいた、『Casa dell’ amore』の女性オーナー、星野 凛華から、何者かに尾行されている事を相談される。
その日は、尾行してきた者を撒くために、拓人の車で西新宿の電鉄系ホテルのカフェラウンジに向かい、三人でお茶をして別れた彼だったが、秘密厳守の娼館の人間が尾行されている事が気になり、SNS上で闇バイトを検索した拓人。
尾行に関する闇バイトの情報は得られなかったが、後日、拓人を震撼させる闇バイトの募集を発見。
だが、見つけた時は、既に事件が勃発した後だった。