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🦂「ごちそうさまでした!」
ちょうど昼ごはんを食べ終えた陽桜はコト、と弁当箱を流しにおいて、ちょうど授業おわりで戻ってきた阿英に洗っておくように指示する。
🧸「あれ、弁当やったん?」
🦂「今日午後からなのえぬくんに言い忘れててさ、なんか弁当置いてあったから」
えぬくん、というのは雅のあだ名。有兎家は基本あだ名で呼び合うことが多い。雅は猫が好きで、ゲームのプレイヤー名もぬこみや。そしてそこからぬこちゃん、と呼んだりえぬくん、と呼んだりとあだ名が生まれる。陽桜がすこぴょんとかさそりくんとか呼ばれるのも、菜瑚芽がなめこと呼ばれるのも、有兎家ならではの距離の近さ。
🧸「あぁ、そういうことか〜。じゃあ俺の分は無いやん」
🦂「そうだねw」
ちぇー、と不服そうにしながら、阿英はまだ仕事中でリビングに来ていない千流を待つのか、テレビの電源を入れた。
🦂「じゃあ、俺仕事行ってくるから」
🧸「はぁーい。ワイドショーしかやってへんやん…。」
不満げな阿英の声を尻目に、陽桜は家を出て仕事場であるカフェに向かう。
移動は徒歩。陽桜の能力的に徒歩と相性がいいのはもちろん、運動するのがもともと好きな陽桜は車の免許すら持っていない。有兎家で免許を持っているのは翔狗と泰、それから千流の3人だけで、家族でどこか出かけるときはその3人の運転で行く。全員合わせて10人もいるから、一台で移動するのは不可能なのである。
🦂「こんにちわ〜」
「お、来たか有兎。重役出勤か」
🦂「まぁ、夕方のシフトの方が俺的にも助かるし。」
「店的にもその方が助かるだろうしな。」
カフェの従業員室に入ると、ちょうど休憩中だったらしい同僚と顔を合わせる。
若干冷やかされつつ着替えた後ホールに立つ。この時間は客足がそこまで多く無いので、ラテアートの練習でもしながら常連さんとの会話を楽しむ。
陽桜のラテアートは女子高生からのリクエストが多すぎるあまりにメキメキと腕を上げている。
「今日は有兎弟来んの?」
🦂「知らない、シフト表見たらわかんじゃない?」
「名前なんだっけ、文悟?」
🦂「そうそう」
そんな会話をしながら陽桜もシフト表を見る。そこには弟である文悟の名前がしっかりと書いてあった。
今日は文悟の定期的なシフトの日では無いはずだから自分からシフトを入れてきたんだろう。同じ職場で働いていて、同じ家に住んでいても全てが把握できているわけじゃない。人数が多すぎるのもあるし、文悟は大学にバイトにと結構忙しい生活を送ってるから、まともに話すタイミングがあんまりない。
カランカランと音を立てて開いた扉から、きゃっきゃっと話す女子高生が入ってくる。時計を見ればもうそんな時間で、陽桜の存在に気づいた高校生は話しかけてくる。
「あ、陽桜さん今日シフトあったんですか〜?」
🦂「え、そうだよ。平日は基本いるけど…」
「今日朝来た時いなかったから休みだと思ってました〜」
🦂「あ、朝来たんだ〜!ここモーニングも美味しいからね。今日はたまたま午後からだったんだよね〜」
「まじか運なーい」
🦂「アイスティーでいい?」
「はーいありがとーございまーす」
「相変わらずよう覚えてんねぇ」
🦂「まぁ、よく来てくれる人は覚えるでしょ」
「はぁ〜これだからモテる男って……」
顔と名前は一致できても、それに加えていつも頼むメニューまで、最近よく来る女子高生全員覚えてるって言っても過言じゃないんだから、困ったもんだ。そんな風に頭を抱える同僚をよそに、陽桜はアイスティーを先の女子高生に渡す。にこっと笑顔を見せれば、女子高生はきゃーと声を上げながらアイスティーを受け取った。
🦩「相変わらずたらしてんね」
🦂「あ、文鳥来てたん」
🦩「今きた〜」
店員から渡されたコーヒーと軽食を運びながらにかっと笑う文悟に、陽桜もつられて笑う。
夕方のこの時間、高校生が宿題をやりに、雑談をしに、このカフェに集まってくる。だからこの時間が1番賑やかで忙しい。
陽桜も文悟もテーブルをカウンターをと駆けずり回って、普通なら息切れしそうなくらいスピーディーに動く。
陽桜はコンッ、と最後の注文を届け終えると、カウンターに手をついてハァー、と息を吐く。高校生は学校終わりに一気に押し寄せるので、注文も一気に大量に来る。一息つけばもうそこまで忙しい時間でもない。
少し、気を抜いた。ラテアートでもしようとコーヒーカップを取りだして、コーヒーを注ぐ、と。
🦂「ギャッ?!」
「わぁ!」
ボッ
火柱が上がり、一瞬その周りの温度が急上昇する。
🦂「ごめんなさい!ほんとにごめんなさい!」
🦩「何してんのさそりくん」
🦂「やらかした……」
🦩「疲れてるんちゃう?ちゃんと寝てる?」
🦂「寝てるよ……ほんと、ごめんね」
陽桜は目の前に座っていたお客さんに手を合わせて謝る。被害は全く出ていないのが不幸中の幸いで、特に焦げるとかそういったこともなかった。
火柱の影響であっつあつなコーヒーカップを文悟の方に押し付ける。
🦂「これ飲んどいて」
🦩「ん、あつっ!」
🦂「そらそう」
もーばかさそり〜とぶつぶつ言いながらも文悟はコーヒーを飲み干す。
文悟は文句を言いつつも、かなりなんでもしてくれる。わがままな弟に囲まれているからだろうか。
陽桜は、火柱事件のことを上司に説教された後、もう日が落ち切るギリギリの道を文悟と並んで歩く。
🦩「まじでびびったわ、何あの火柱w」
🦂「俺だってびびったわ。普通にボワって炎上がったら誰でもビビるって」
🦩「それはそうかw」
家が見えてきた時、ドアの前に立つ一人の人物に目が向いた。
🦩「あ、カンマや」
🦂「ほんとだ」
🌼「あ、二人今帰り?」
🦩「不審者かと思った」
🌼「失礼だな」
カンマ、名前は花園蘭華。有兎家の隣に住む、頼れるお兄さん。泰と同じ会社で働いていて、泰や翔狗とは昔から仲がいい。
中でも菜瑚芽や雅はかなり懐いている。
🦂「何しにきたの」
🌼「え、ご飯食べにきた」
🦂「うわぁ」
🌼「引くなよ」
そんな会話をしながら家の中に入れば、カンマやん!!という菜瑚芽の声を口火にいつもの騒がしい有兎家の空気に飲まれていった。