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逆上した美緒は、テーブルに置いたナイフを握った。
颯真は、咄嗟に香帆の前に立ったが、
(アカン! 俺の身体は貫通する!)
ナイフは颯真の喉を通過して、香帆の顔を狙った。
香帆は恐怖で動けない。
カチャン……。
美緒はフォークを床に落とした。
「バカらしい。帰るわ」
香帆が叫んだ。
「バカらしいって何よ! 美緒のせいで颯真は死んだし、私は酷い目に遭ったのよ!」
「誘惑に負けて浮気したのは佐山さん。殺したのはホストでしょ」
「確かにそう。美緒はいつも正しいことを言う。
でもね。正しいから正解じゃないんだよ。
人間て、もっと複雑なんだよ。いろんな感情があるんだよ」
「さようなら」
美緒は一度も振り返らずに玄関を出た。
翌日、香帆は仕事を休んだ。
どうしても出勤する気持ちになれなかった。
夕方、女性ドライバーからLINNが届いた。
『藤崎さんが辞めたの お父さんの介護だって 急に倒れて 大変ね』
美緒は退職手続きを〈退職代行サービス〉に依頼した。
業者に頼むと、すべての作業を代行してくれる。
美緒は一度も出社せず、宅配便を退職した。
最後の日に『ありがとうございました。皆様でどうぞ』というメッセージカードと、高級和菓子が営業所に届いた。
香帆はカードをじっと見つめた。
(そうか、美緒って……、謝らない人なんだ)
[絶対に謝らない人]がいる。
失敗を認めたくない、責任から逃れたい、プライドが高い、自信過剰、
自己中心的、頑固、悪い結果が出ると〈誰かのせい〉〈何かのせい〉にする……。
こういう人は「謝ったら負け」と思っている。
『急に辞めてすみません』『御迷惑をお掛けして申し訳ございません』
社会人なら、その一言を加えるはずだ。
カードですら謝れない人に、反省や謝罪を求めてもムダだ。
あのときフォークを落としたことが、美緒の精一杯の気持ちだろう。
「これで……、終わったんだ……」
やっと復讐が終わった。
あとは、颯真が成仏するだけだ。