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#ワンナイトラブ
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母からの電話を切った後、私の指先はガタガタと目に見えて震えていた。
「結婚が嘘だ」と、一体誰が、どんな目的でおばあちゃんに……?
私たちが細心の注意を払って作り上げた完璧な契約のどこに、これほど致命的な綻びが出たというのだろう。
「志乃、顔色が悪いぞ。何があった」
異変に気づき駆け寄ってきた京介に、途切れ途切れに事情を話す。
それを聞く彼の表情から、一瞬にして温度が消え去った。
そのまま強引に助手席へ押し込まれ、エンジンが唸りを上げる。
向かうのは病院だとばかり思っていたが
車が滑り込んだのは、見慣れたマンションの地下駐車場だった。
「……どうして、病院に行かせてくれないんですか! 今この瞬間も、おばあちゃんが不安な思いを……っ」
「今動けば相手の思う壺だ。向こうには既に手を打ってある。……それよりも志乃、お前には聞かねばならないことがある」
リビングの重厚なドアを閉めるなり、京介は抗う私の体を壁に激しく押し込んだ。
逃げ場を塞ぐように両手が壁に打ちつけられ、彼の巨大な影が、矮小な私を完全に覆い隠す。
「お前、さっき電話で『佐々木から連絡があった』と言わなかったか?」
「え……?それは、彼も病院の近くに住んでいて、入り口で不審な男を見かけたと…それで私に教えてくれただけで……」
「なぜ、ただの社員であるそいつが、おばあ様の詳細な入院先を知っている」
京介の声は、地を這うように低く、そして冷酷だった。
それはいつもの冷徹な経営者としての怒りではない。
もっと暗く、澱んだ、深い情念──
「嫉妬」という名の炎が、彼の鋼の理性を焼き切ろうとしているのだと、肌で理解してしまった。
「志乃。俺以外の男に私情で頼るな、連絡を取るなと言ったはずだ」
「頼ってなんていません!私はただ、一刻も早くおばあちゃんの安否を知りたくて───」
唇を塞がれたのは、私の稚拙な抗議の言葉をすべて強引に飲み込ませるためだった。
それは今までで一番荒々しく、唇が切れるかと思うほどの痛みを伴うキス。
彼は私の顔をガードしていたシルバーフレームの眼鏡を
むしり取るようにして外すと、見向きもせずに床へ放り投げた。
硬い音が響き、視界が歪む。
その中で、京介の瞳だけが獣のようにギラギラと光を放っていた。
「不安なら、俺だけを見ていろ。俺だけを頼れ。……お前を他人に奪われるくらいなら、俺はこの契約ごと、お前をここに閉じ込めて一生飼い殺してもいいんだぞ」
震える私の肩を掴む彼の指先に、骨がきしむほどの力がこもる。
そこにあるのは冷徹なCEOの仮面などではなく
一人の女を失うことに怯え、狂おしいほどの独占欲に突き動かされた「雄」の剥き出しの姿だった。
「…ん、っ……京介、…なんで、こんな……」
「……俺が今からお前に刻みつける熱だけを、その脳に焼き付けておけ」
激しく求められ、肌が擦れ合う中で、私は恐怖と共に、逃れようのない歪んだ快楽を感じていた。
この人は、仕事のために、あるいは契約のために私を抱いているのではない。
契約という名の鎖を自ら引き千切ってでも
私という存在を、魂まで自分のものにしたいと願っている。
その狂気に近い執着が、今の私には酷く、残酷なほどに甘く感じられた。