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鋼谷が久しぶりに錆の都支部へと足を踏み入れると、薄暗い室内には静寂が漂い、ほこりがたまっている。目を細めながら、薄暗い電灯の下で足元を確認すると、床の一部には昨夜の雨漏りの跡がシミのように残っている。
「…相変わらず薄汚れてんな」
少し苦笑しながら奥に進むと、無機質なFAX機が薄闇の中で不気味に光り、ひたすら紙を吐き出し続けていた。その音だけが室内に響き渡り、まるでその場の不気味さを際立たせるかのようだ。鋼谷が怪訝な顔をしながらFAXの紙を手に取ると、無数のメッセージが詰まっていた。ほとんどが「本社に戻れ」「至急帰還せよ」といったものばかりで、緊急性があるように見える。
「本社に帰れって?随分しつこいな…」
メッセージの数を数えるまでもなく、FAX機はまだ動き続けており、まるで本社からの叫びをここに送り続けているかのようだ。
鋼谷はしばらく考え込んだ後、仕方なく本社に連絡を入れることにした。本社の対応はどこか慌ただしく、鋼谷が電話をかけるや否や、担当者が焦りの色を浮かべた声で応答する。
「鋼谷!ようやく連絡ついたか!ずっと連絡が取れなくて、もしかして幽霊化したんじゃないかと心配してたんだぞ!」
「悪いな、支部に来ること自体久しぶりだったもんで。にしてもFAXの量がすごいことになってたけど、一体何の用だよ?」
「君に至急戻ってきてほしいんだ。本社の方で、ある重大な問題が発生している。君の力が必要なんだ」
その言葉に鋼谷は眉をひそめた。通常、本社がここまでして直接的な連絡を取ることは珍しい。それだけ何か緊急の案件があるのだろうが、それでも不自然さを感じずにはいられなかった。
「了解だ。だが、今さら戻って何をするっていうんだ?」
「詳しいことは本社で説明するが、どうやら新たな『異能の反応』が我々の目の届かない場所で活発化しているようなんだ。幽霊の未練に関わる非常に危険な領域があり、そこでの対策が急務だ」
鋼谷は少し考え込み、そして深く息をついた。錆の都での任務はまだ続くと思っていたが、どうやら一時的に本社に戻らざるを得ないらしい。
「分かったよ。じゃあすぐに向かうとするか…FAXも止めといてくれよ。戻ったらすぐ本社に行くからさ」
電話を切った鋼谷は、支部のドアを閉め、錆の都の風景にもう一度視線を向ける。しばらくの間この場所を離れることになるのは少し寂しいが、また戻ってくる日を胸に誓いながら、その場を後にした。