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海洋高校−物語は波のように−

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海洋高校−物語は波のように−

16 - 第12話「深層のうたを、まだ覚えてる」

2025年08月08日

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第12話「深層のうたを、まだ覚えてる」

登場人物:ルナ=シガ(潮属性・2年)





その日、潮属性2年のルナ=シガは水草水槽の前で立ち止まっていた。

灰緑のショートボブ、うっすら焼けた頬に丸いイヤーシェルのピアス。

制服の袖から見える手首は、細く、でも堅い。


「また……聞こえる」





水槽から、微かな音が響いていた。

“音”といっても、誰にも聞こえない。

ルナだけが、**かつて深層試験の最中に聴いた波音の“記憶”**として、それを覚えていた。





■回想(1年前)


深層試験——

それは自分自身の「波域」の最深層に潜り、まだ見ぬ“ゆらぎ”に直面する試験。

うまく向き合えば“変質”の可能性が拓けるが、逃げれば“共鳴異常”や“逆流”が起きることもある。





ルナはかつて、その試験で**「深層のうた」**を聴いた。


──静かに深く、しずくのように沈む音。


あのとき、彼女は恐れて逃げた。





「私は変わる資格がない」

「深いところで“何か”が自分を拒んでる」





以降、ルナは「変質未遂」とされていた。

だが、彼女は今もその音だけは忘れていなかった。





■現在


校舎裏の海辺にある**“波域の浜”**。

静かな干潟の音を聴きながら、ルナは手帳にこう記す。


《深層のうたを、まだ覚えてる。

あれは、わたしの拒絶じゃない。

まだ、言葉になってないだけ。》





放課後、偶然通りかかったシオ=コショー先生に、そのことを話す。

非常勤で滅多に見かけないはずの先生が、なぜか掃除道具を持ってそこにいた。





「潮の音ってね、戻ってくるんだよ」

「一度潜って、また聞けたなら、それは“逃げた”んじゃなくて、“生きて帰ってきた”ってこと」





その夜、ルナはもう一度、深層記録を再生する。

音の残響をなぞるように、少しだけ深く沈んでみる。

そこには、前よりも穏やかな“自分のうた”が、確かに波の底にあった。





「私はまだ変質してない。

でも、まだ変わりたくないわけじゃない。

私はただ、深い海に、歌い返すタイミングを探してる」




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