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第13話「波域違反」
登場人物:ルナ=シガ(潮属性・2年)/ハウリ=ナギネ(波属性・1年)
昼休みの共鳴ルーム。
静かに潮音が流れる個室に、潮属性のルナ=シガがいた。
制服のスカートに、海藻モチーフのクリップ。
両手で波域手帳を抱えて、目を閉じていた。
そのとき、ドアが乱暴に開いた。
「先輩、すみません、ここ入って大丈夫っすか……?」
乱れた髪と開きかけた制服。
水しぶきのような汗をかいて立っていたのは、波属性の1年、ハウリ=ナギネだった。
「ここは潮域だよ」
ルナが静かに言った。
「でも……波域の共鳴室が埋まってて。俺、波抑制の訓練中で……」
「混ざるよ、波が。潮と波が交わると、記録に残らない感情が出やすいって言われてる」
「──試したくて」
ハウリは“自分の波”に迷っていた。
波属性としての「共鳴反応」が強すぎて、調理中に食材が崩れたり、他人とぶつかったりすることが多い。
「波って、いつも“ぶつける”ためにあるんですか?
俺、本当はもっと、しずかな“寄せ波”になりたくて──」
ルナは少し迷い、共鳴を許した。
ふたりが座り、共鳴を始めて数分後。
波が潮に滲み、潮が波に飲まれる。
互いの波域境界が“にじんで”いく。
「ナギネ、共鳴中止して──!」
ルナが叫んだときには、すでに記録エラーが発生していた。
共鳴機の記録システムが、「どちらの波か判別できない」波を感知した。
波域違反。
本来、異なる波域の属性同士での“共鳴”は監督者なしでは禁じられている。
ときに強制的な“変質”を起こすからだ。
ふたりは保健室に運ばれた。
身体的な異常はなかった。
だが、ハウリの手帳には、見覚えのない言葉が書き込まれていた。
《よせては、かえす。
名前を、まだ持たない、波。》
それは、深層試験レベルの“自動記述”だった。
ふたりの感情が混ざり、“まだ名付けられていない個性”をかたちにしようとしていたのかもしれない。
数日後、ハウリは共鳴室の前に立ち、ルナに頭を下げた。
「すみませんでした……でも、あの共鳴の波、俺、一部だけ覚えてるんです」
「覚えてるって?」
「“怒らない潮”って、あるんだなって」
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