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石川のお骨はとりあえず親父の家で保管されることとなった。俺は若者組にお骨を託すと、その足であの店に向かった。
受付のいつもの男性は俺の顔を見るなり「この度はご愁傷様です。心よりお悔やみ申し上げます」と深々と頭を下げた。俺も頭を下げた。
「──麗華さんですね?」男性はそう言って内線ではなくスマホで電話を始めた。
麗華さんは今日はお休みで、もし俺が店にやって来たら電話をくれるように伝えていたという。二十分ほどかかるから先に部屋で待っているように言われた。
麗華さんはいつもの衣装ではなく、黒いワンピースで訪れた。本当に自宅からすぐに来てくれたんだろう。麗華さんもお悔やみの言葉を述べてくれた。そして向かいのソファに座った。
「──お休みのところごめん」
俺がそう言うと麗華さんはゆるく首を振った。
「石川さんが亡くなったのはニュースで見て知ってたから。もしかして告別式終わったら店に来るかなって思ってお休みにしてた」
「それは悪かった」そう言うと麗華さんはまた首を振った。
「私達がお葬式に行くわけにはいかなかったから」麗華さんは目を伏せるとそうポツリと言った。
「きっと組の人がたくさん来るんだろうなって。だから遠慮したの。石川さんが贔屓にしてた子なんかは行きたいってゴネて大変だったけどね」
「そうかも。組関係の人しか来てなかったから。贔屓にしてた子なんていたんだ?」
「いたわよ。それこそこの辺の店じゃ石川さんは有名で、各店に贔屓の子が一人はいたけどね。石川さんはMってわけじゃなかったから私は直接はプレイしたことなかったけど。ウチにもいたわよ、Mコースの可愛い子。石川さんの好みは分かりやすくてね、見た目の可愛い巨乳の子。風俗案内所の人なんて可愛い巨乳の子が入店してきたらまず石川さんに連絡してたくらいだから」麗華さんは思い出したように薄く笑った。
「知らなかったな。そんな話ってあんまりしなかったから」
「碧に話しても同意して貰えそうもなかったからじゃない? 可愛いとか巨乳とか興味ないでしょ?」
それはまあ。それに俺はリタ・ヘイワースばりに美人な麗華さんを見てるだけで十分だ。
「そういえば俺が麗華さんがリタ・ヘイワースに似てるって言った時に、『そっちかあ』って言ってた。そっちってどっちかと思ったけど」
「石川さんはアイドルとかそっち系が好みだったから」
そっか。もっと石川のことを知っておけばよかったな。
麗華さんは立ち上がると奥に行って瓶とグラスを持って戻って来た。
「本当は日本酒のほうがいいんでしょうけど。石川さんはイタリアのシチリアワインが好きだったの。特にこの〈ネロ ダヴォラ リゼルヴァ〉。オーガニックワインなのよ」
「オーガニックとか石川らしいや」
麗華さんはそう言って器用に封を開けると、ワイングラスに注いだ。
「献杯」そう言ってグラスを掲げた。ワインは美しいガーネット色でかなり濃厚な味わいだった。確かに石川に似合いそうなワインだなと思う。
俺たちはただ黙ってワインを飲んだ。