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「——起きて、司さんっ」
ゆっさゆっさと背中を揺らされ、目が覚めた。
「…… 何?」
普段の目覚めは良い方なのに、今日はどうにも眠気がなかなかな取れない。
「ご飯食べないと、倒れちゃうよ?」
そう言う唯から視線をずらし、ベッド横に置かれた時計を見ると、時間は朝の八時だった。
「今さっき寝たばかりじゃないか…… 」
(眠くてしょうがないのも当然か)
「昨日の晩御飯、食べちゃわないと。美味しく出来てたよ?」
(…… そうだ、昨日の晩御飯を食べてないんだった。その事実に気が付いた途端、今まで平気だったはずなのに、急にお腹が空いてきた)
「食べる」
小声でそう呟くと、だるい身体を無理やり起こし、布団を剥いだ。
「きゃっ」と唯が短い悲鳴をあげ、顔を赤く染めながら視線を反らす。不思議に思いながら下を向くと、一切服を着ていなかった。どうやら俺は全裸のまま寝てしまっていたようだ。
(今更何を照れる?こんな事なんて、今までにも何回もあったろうに)
「早く服着て!」
クローゼットから唯が適当に服を取り出し、俺の方へとほおリ投げてきた。
「何も、投げなくても…… 」
「だって、そんな格好の司さんの傍に行ったら、また押し倒してきそうなんだもん!」
「まぁ、そうだな」
「『そうだな』——じゃない!ご飯食べるのが先なの!」
俺の真似をしながら、唯が文句を言う。きっとものすごく腹が減っていて不機嫌気味なのだろう。
「…… 唯が食べたいのになぁ」
「アレだけしたのに、食べたりないのか貴方は!」
「あぁ」
「『あぁ』じゃなくって!」と叫ぶエプロン姿の唯の身体をギュッと抱き締めると、「服を着てぇ!」と叫びながらも抱き締め返してくれた。頬を赤く染め、怒っているのか笑っているのか全く読めない不思議な表情をしている。
「じゃあ、ご飯終わったら食べてもいいか?」
「日本語がヘンだよぉ」
「分かってるけど、間違ってはいないよ」
「…… 片付け、手伝ってくれる?」
「あぁ、もちろん」
「じゃ、じゃあ…… 」
照れくさそうにそう答え、唯がそっと俺から離れる。床に落ちる服を拾い上げると、俺の腕にそれを押し付けるように渡してきた。
「——とにかく、一回服着て!あ、シャワーもあびないと」と言いながら、パタパタを足音を立てながら寝室を出て行った。
ベッドに腰掛け、のそのそとした動きでそれらを着ようとした時、ベッドサイドに置かれたままになっている紙袋が目に付いた。
今朝までの間に本を参考に体位も色々試したし、玩具も半分は使った。次は何をして遊ぼうかな…… と、眠い頭で考える。
どうやら、アレらは妻の私物だというのに、自分の方がすっかりハマってしまった様だ。本気で今度、唯の過激な友人に礼でも言おうかと思いつつ、着替えを終えて妻の待つ居間へ行く。
——今日という休日を、『唯で』遊べる事に喜びながら、俺は昨日の夜に食べるはずだったご飯に、やっとありついたのだった。
【番外編・完結】