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圭子は昔なじみの気安さから前々回だったか、松尾が接待で上司やクライアントと
一緒に店に来店していた時に彼の横に座ることがあり、その時何気にこの街に数か月前に引っ越してきた
ばかりだという話をしていた。
勿論今の住居が分かるようなことは話していないが以前のマンションとは縁も
ゆかりもなさそうな松尾に対して、うっかり話の流れで以前住んでいた
マンション名を口にしていた。
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「僕の付き合ってる小泉淳子さんと同じマンションだったらしいね。
僕ね、お見合いの釣り書見た時にピンときて、渚ちゃんが話してたこと
思い出してさ『知り合いに同じマンションに住んでた人がいるんだけど』
って話になって、 だけどこの時まさか本当にふたりが知り合いだなんて
思ってなかったんだけど……。
小泉さんから背格好や特徴を聞かれて渚ちゃんじゃないのかなって話に
なったんだよね。
でも僕渚ちゃんの本名知らないから、確認しておこうかなと思ってね」
どうすればいいのか、何て答えようか、私は逡巡した。
「うん、小泉さんのことは知ってる。
だけど、余り深い付き合いではないから……」
歯切れが悪くて、印象悪くするかなとも思ったけれど親しくしてないのは
本当だから嘘は付けない。
それにしても、松尾さんみたいないい男性が淳子さんみたいな女に引っ掛かる
なんて、えっ? しかもお見合い?
いろいろと問題起こしているっていうのに彼女は婚活もしていたのかと、
私は呆れるしかなかった。
『松尾さぁ~ん、この人と結婚したら骨の髄までしゃぶられちゃうわよぉ~』
そう忠告してあげたかった……。
だけど、親しいと言ったってたかだかクラブのお客様で数回同じテーブルに付いただけの
関係で、淳子さんが危険人物であることを話せるほどの距離感ではない。
悩ましいけれど、足を突っ込んでいいものかどうか。
悩んでいる私の横で更に続けて聞きたくなかったようなことを松尾さんは
喋り始めた。
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