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勉はその日、秋葉原にいた。使っているウィンドウズXPが近ごろ緩慢なためで、かといって新しいPCを買おうと決めたわけではなかった。
店先にはウインドウズ7の新製品が並んでいる。あちらの店、こちらの店と、うだうだ炎天下をさまよってみた。強烈な照り返しが、アスファルトを銀白色に塗っている。短い影を踏む。ビルの谷間に顔を出した入道雲が歪んでいた。身体中の筋肉が緩みきって、骨は支える気力をなくしつつある。背中にべったり張り付いたポロシャツは、ここに来た目的をあいまいにした。勉は日陰の小道にもぐりこんだ。
ジージーいう声を辿ると、腹と羽根をわずかに動かすセミが電柱にへばりついていた。大衆食堂の窓際には、この時間から酒を飲む連中が貼りついている。蒸し暑い空気を裂いて歩くうち、「100円特価」という自販機のシールが見えた。陳列ケースに行儀よく並ぶ缶とペットボトルの中で、本当に100円なのは小さな炭酸飲料だけだった。500mlものとなると、他と変わらぬ130円だったり、150円だったりしている。財布をのぞく。小銭が重そうな摩擦音を出して、外光の元に出るのを待っていた。10円玉と50円玉を数えてみる。130円には届かなかった。かといって、札をつかってこれ以上小銭を増やす気にも、積極的にはなれない。