確かに康夫は私に酷い言葉を投げつけたけど、彼はあの時怒っていた。売り言葉に買い言葉で、私も酷い言葉を彼に投げつけた
母の実家に逃げ帰って三日後、康夫がケーキを持ってやってきた
私は彼の顔を見るなり泣きじゃくった。彼は椅子を蹴り上げて私を怖がらせた事も、キツイ言葉を浴びせかけたことも「悪かった」と謝ってくれた。泣きじゃくる私を抱きしめてくれた
康夫は母にお礼を言って、私達を家に連れ帰ってくれた
私は彼に初めて持った「秘密」のせいで、身動きが取れずにいた
夫を裏切ったという事だけではない、和樹にされたペッティングがどれほど気持ちよかったかという恥知らずな記憶が私を苦しめた
どれほど我を忘れて
どれほど彼のキスが素敵だったか
記憶が蘇ってくる度
激しく自分を殴りたくなる
康夫は喧嘩した時は私に酷いけど、トータルで言えば彼は良い夫だ。私達に素敵な家を与え、今では私の要求は通り、子供は私立幼稚園と習い事が出来て、私専用の車も買ってくれている
本当に考えれば考えるほど、私はこれほど恵まれている事は無い、でも人間はすぐに贅沢をしたがるだからってどうしてあんなことを・・・・
私の中の女のずるい本性が見抜いていたのだ、私は康夫の言葉に傷つき、誰かに優しくして欲しかった。だから和樹の所へ行った、私が泣いてドアに立てば彼は家に入れてくれる、泣いている私に優しくしてくると確信があった
誰かに甘やかしてもらいたかった
でも・・・あそこまで彼が仕掛けて来るとは想定していなかった
目の前に和樹のいきり立ったモノがあったのを思い出す
今まで康夫とのセックスは、自分の快感より康夫に気持ちよくなってもらいたい献身的なもので、自分の快感などは二の次だった
だからあれは信じられなかった、いくら酔ってたとはいえあれほど和樹の指を・・・彼の体を自分の性の欲望のままに道具のようにあつかった
それを考える度に自分が嫌いになるのだ
そしてその翌月母が「二人でゆっくりしてきなさい」と子供達を預かってくれた夜、康夫と二度も体を重ねたけど、和樹としたほどの情熱はもう私の中には生まれなかった
そして私は三人目を宿した
康夫はあの時、喧嘩した日をすっかり忘れている
常に人に正直になれと言う人達は夢の国に生きているのだろう
もしくは結婚した事がないか、子供がいないに違いない。親はいつも自分の子供に嘘をつく
セックスや自分の性癖なども、人に対しての妬みや嫉み、私達は相手の感情を傷つけないために上手に隠し愛する人に嘘をつく――
それが愛なのだから、それが生活なのだから
思いやりのない正直さは残酷で、ただの身勝手なのだから
あれから和樹に会っていない。康夫は和樹がうちに寄りたがらないと
不思議がっていた、私は涼しい顔をしてそれを聞いていた
よかった・・・・
私は彼と二度と会う気はない、あの夜の事は誰にも言わずに墓場まで持って行くつもりだ
彼もそうだと信じたい
そう信じて・・・・子供達が幼稚園に行って誰もいない昼間、私は自分のしたことに康夫を裏切ったことに悲しくなって一人膝を抱えて涙するのだった
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