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桜城
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最上階の隔壁が軋む音を立てて開いた。
ザルガンは一歩踏み出し、次の瞬間、言葉を失った。
「これは……神石じゃない……化け物だ」 空間そのものが歪んでいた。
中央に浮かぶライト・イエロー・エナジーストーンを中心に、空気が渦を巻き、
光が波打ち、重力の向きさえ曖昧になっている。
その内側。淡い黄光に包まれた石の奥でコバルトブルーの澄んだ層を重ねた“律核”が、
世界と呼応する律動を刻むように静かに脈動していた。それは、もはや「物体」ではない。
アルディンには、意思を持つ存在が塔の心臓に在るように思えた。そんな錯覚を覚えさせる異様な光景だった。
次の瞬間。
光の触手が一本しなり、設置されていた音叉装置のひとつを正確に叩き壊した。金属音が弾け、破壊された音叉が床を転がる。その残骸を、光の触手が “撫でるように” 揺らめかせた。
反対側の触手では白い光のシャボン玉が次々と生み出されていく。
弾けるたび、衝撃波が空間を叩いた。
室内には “パイプオルガンのような波動音” が立ち込め、
塔全体を内側から震わせ続けていた。
「ザルガン! こいつ……完全に“意志”を持っている!!
無機物じゃねぇ! 科学で引っ張り起こしちまったんだ……化け物を!!」
アルディンの叫びにザルガンは一瞬だけ目を伏せ、そして、即座に言い切った。
「未知に触れたとき、科学は必ず “予測不能” を生む。だが、怯むな。アルディン!」
彼は神石から視線を逸らさず続ける。
「理解より先に――生き残れ!! 考えるのは、そのあとだ!!」
その言葉と同時に神石の触手が大きくうねり空間が悲鳴を上げた。
ザルガンは歯を食いしばり、
神石の間の側面――石室観測室へと続く通路へと身体を投げ出した。
(見るだけでは足りん……測れ。解析しろ。――止める道は、必ずある!)
科学者の思考がようやく“本領”を発揮しようとしていた。
石室観測室に転がり込んだ瞬間、ザルガンは扉を背で押し閉め壁に手をついた。観測室全体が低く唸り、床に刻まれた魔法陣と解析水晶が不規則な光を放つ。
「落ち着け……」
自分に言い聞かせるように呟きザルガンは中央の水晶盤へと歩み寄った。水晶盤に映し出される波形はもはや“乱流”と呼ぶべきものだった。
《共振値:298.6%》
《塔構造負荷:臨界接近》
《神石コア:位相不安定》
「予測不能、か……」
だが、ザルガンの視線は一点に吸い寄せられる。波形の奥、完全な乱れの中にわずかな規則性があった。
(揺らぎ……? いや、違う……これは…… “ずれ” だ)
彼は指先で波形を拡大し重ね合わせる。
(神石は、塔と完全に同調していない……
共振しながらも、どこかで “噛み合っていない” ……)
額に汗が滲む。
(つまり、完全な暴走ではない…… まだ、制御の“余白”がある……!)
ザルガンの思考が、加速する。
音叉装置――破壊。
外部制御――不可能。
残る手段は、ただひとつ。
(神石内部から、位相を崩す!)
彼は視線を上げ、観測窓越しに神石を見る。
コバルトブルーの核。
触手の動き。
光球が生まれる位置。
(ここは真正面じゃない…… 真正面は、もっとも安定している……)
水晶盤に数式が浮かび上がる。
(ここだ…… コアの回転軸に対して、右……十二度)
ザルガンの喉が鳴った。
(ほんの一瞬でいい……この角度で衝撃を与えれば、位相は“滑る”……!)
観測室が大きく揺れ壁の水晶が悲鳴のような音を立てる。
《共振値、急上昇》
《塔基盤、耐久限界まで残り――00:15:15》
「時間がない……!」
ザルガンは通信機を掴み叫んだ。
「アルディン!! 聞こえるか!!」
『ああ!! 触手が増えてきやがる!!』
「神石のコアだ!! 真正面から突くな!! 右へ十二度――ほんの僅かでいい!!」
『十二度……!?』
「完全に壊す必要はない!! 一瞬、突き刺して揺らせ!! それだけで共振が崩れる!!」
通信の向こうで、アルディンが短く息を吐く音が聞こえた。
『……了解だ』 その声に、迷いはなかった。
ザルガンは拳を握りしめる。
(頼む……理論を、現実に変えてくれ……!)
アルディンはゴーグルを装着し、律槍 を握り直した。
――狙う。
神石を。
光の触手がうねり、白い光球が次々と弾けていく。
(右……十二度……)
彼は一瞬だけ、呼吸を整える。
(ザルガンの計算を信じろ……考えるな。感じろ)
床を蹴った。
光の触手が迫る。だが、アルディンは踏み込みの角度を僅かにずらす。
真正面ではない。右へ、ほんの十二度。
「――おおおおッ!!」
律槍が、閃光を引き裂いた。
刃先が、神石の黒曜石核へと“斜めに”突き込まれる。
手応えがあった。
だが、その瞬間、神石が創り出していた白い光のシャボン玉が頭上で弾けた。
「ッ!!」
アルディンは即座に反応し、槍を抜き、エルフブーツの反発力を解放して大きく後方へ跳ねた。
―― 間一髪。
爆発にも等しい衝撃波が室内を薙ぎ払い、観測室のモニター群も吹き飛ばす。
火花が天井へ乱舞し、金属片が床を跳ねた。
「なんて威力だ……!」
塔の中心に浮かぶライト・イエロー・エナジーストーンが、怒りを露わにするかのように光を増幅させて、触手を形成していった。
触手がのたうち、触れた金属工具を次々と**“分解”していった。**
音もなく金属は粒子へと崩れ空気に溶けるように消滅する。
「素粒子に……還元している……!? ふざけんなよ……」
アルディンの顔色が、みるみる失われていく。
そのときだった。
触手がのたうち、触れた金属工具を次々と“分解”していった。
音もなく、金属は粒子へと崩れ、空気に溶けるように消滅する。
「素粒子に……還元している……!? ふざけんなよ……」
アルディンの顔色が、みるみる失われていく。
そのときだった。
一本の光の触手がしなり、床に散乱していた音叉の残骸を絡め取って浮かせた。
そして、勢いよく、アルディンの身体へ向けて投げつける。
「……っ!?」
次の瞬間。音叉のU字構造が淡く発光し、空中でぴたりと停止した。
音叉の内側に、透明な “何か” が張りつめる。
空気が歪む。
まるで、その場所だけ世界そのものが固定されたかのようだった。
「やべぇ……! 身体が思うように動かないぞ!」
動こうとした、だが、アルディンの身体が世界ごと縫い止められたように動かない。
力で押さえつけられているわけじゃない。動作そのものが成立しない。
これは神石の共振に同期した”位相固定フィールド”だった。
「ぐ……っ! ふざけんな……動け! 俺の身体……!」
視界の端で第二の触手が静かに彼へ向かって移動してくる。
ゆっくり……しかし、確実に。
……10メートル。
触手の表面が赤熱し空間が揺らぎ始める。
……9メートル。
床が震え焦げた金属の匂いが鼻を刺した。
「ザルガン! 聞こえるか! これじゃ……動けねぇ! どうにかしてくれ!!」
……8メートル。
空間を侵食するようにアルディンに向かって触手が迫ってゆく。
コメント
1件
第42話、めっちゃ熱かったです…!ザルガンが「理解より先に生き残れ」って叫んだところ、科学者としての本番が始まった感じで鳥肌立ちました。アルディンが彼の計算を信じて十二度の角度で突き込むシーン、二人の信頼関係がにじんでてグッときた。最後の位相固定フィールドで動けなくなる絶望感、やばい。このままやられないでくれ…続きが気になりすぎる🔥