TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

彼と会って早くも二年の時が経つ。最後に会ったのは梅雨時の夜。それ以来彼を見てはいない。

別に私が心配することは無い。だって元々私の気まぐれで話しかけた、それだけなんだから。

相手にとってもそんなもののはず。顔見知りくらいの感覚だろう。でも、何故か私は彼の事を考えてしまう。これはやはり私が彼を、心の拠り所にしている証拠なのだろうか…

ずっとモヤモヤする。気持ちが落ち着かないというのはこのことを言うのだろうか。

自分自身の気持ちの変化に気付いた私は、そのモヤモヤを晴らすかのように仲間と共に遊び倒す。そうすればこのモヤモヤも消えると思ったから。なのに遊び終えるとモヤモヤは復活する。原因が分からない…

いつかの彼と同じように心の拠り所を私が失ったからなのか、それとも全く別の感情なのか。私は自分が分からなくなっていた。

そこから更に時は過ぎ4年目の冬。彼と初めて会った時のようにその日は、以前と同じ雪がシンシンと降り注いでいた。そんな降り積もる雪を見てある事を思い出す。最初彼と会った時に交わした、たわいもない話。その中に、彼がどんな仕事をしているのか私は聞いた記憶があった。

彼は一般的に言われるサラリーマンというもので、その会社はいつも寄っていたあの公園の近くにあるどこかのビルだと言っていた。流石に詳細までは聞かせて貰えなかったけど、大まかな情報はくれた。

それを頼りに私はいつもの公園周辺のビルを飛んで回った。彼とはもう4年近く会っていない。会話こそ少ないけれど、そこには確かに私と彼の記憶があった。私はその瞬間自覚したのだ、彼が私の心の拠り所であり、初めて好感を持てた人物なんだと。

彼の会社を探し始めてどのくらい時が経ったか…ようやく見つけ出し窓の外から会社内部を見てみるも彼の姿は見えない。もう帰宅したのか、そう思っていた時彼が見えた。丁度帰宅するところだったらしい。会社の入口を空から見て彼が来たのを見計らって現れようと思ったが、何故かそれはしなかった。正確には違和感を覚えたのだ。

社内の彼の様子はいつもと違った。たった2回しか会っていないが、それでも違和感は感じ取れた。疲れているとかのレベルではない。何となくそんな気がした。彼が出てきたら驚かすなんかよりもまずは、彼の様態を確認しようと直感で判断した。

少しして、彼が出てきた。成人済みとは思えない足取りで、明らかに体調が優れていないのが見て取れる。すぐに駆け寄り彼に声をかける。

「おじさん!!」

「………うぅ」

「私が分かる!?」

「君は……」

「いつかの妖精さんか?」

「そうあたし!」

「おじさん明らかに体調悪そうだから…」

「ハハッ……上司にもそれ言われたよ」

「笑い事じゃないでしょ!?病院に早く行かないと…」

「すまないが私は上手く歩けないようだ…」

「そんなこと言われても……」

私は妖精だ。人間社会の仕組みなんてほとんど分かりはしない。病院という言葉を知っていても、何処にあるのか、彼を運ぶにしてもどう運ぶのか。私には分からない。何も出来ない自分に腹が立つ…

誰かに助けを求めたくても…誰も助けてくれない。

みんな見て見ぬふりだ。別の人が助けてくれる、だから自分は関係ない。そんなふうに思ってるのだろう。私が助けてあげれるならそんな惨めな思いをしなくても済むのに……

私が何も出来ない子だから………

「大丈夫ですか!?」

自分の不甲斐なさに根を上げていた時のこと、突然女性が声をかけてきた。彼女は他の人と違いまるで、自分のことように心配をしていた。

「おじさんを助けてあげて!私じゃ役に立てなくて……」

「…………」

私のその言葉に同情してくれたのか、彼女は私を見て力強く頷いた。

「私がなんとかして助けてあげる。」

それから彼女が色々やってくれた。救急車を呼び、同行してくれて、更に事情聴取も受けてくれた。もちろんそれには、私も一応同伴はしている。

彼が倒れたのはいわゆる過労であった。元々おじさんは体が弱く、特に心臓が他の人と比べて弱くできており常人の言う無茶が彼にとっては生死を分かつレベルなのだ。肉体的に弱いという枷を背負っていて、それでいて仕事上”上の立場”ということで、様々なプレッシャーがストレスに変わり、それも今回倒れた原因になるのではないかと、医者も話していた。

安静にしていれば症状は良くなると話してはいたが医師から見て、良くなったからと言って仕事をするものでは無いとも話していた。厳密に言えば彼の就いてる職が彼自身にあっていないのだ。それは性格面ではなく肉体的な面での話。可能であるなら症状が和らいだら会社に辞めると告げた方がいいとまで担当医師は話していた。それほどまでに彼の体はボロボロだったのだ。

ここ数年会えなかった理由はきっとそれなのだろう。仕事が立て込み、自己管理を疎かにして仕事と自分の体調と戦っていたのだ。たった1人で……。

彼を助けてくれた女性はどうやら彼の務める会社の人のようで、自分が新人の時お世話になっていた先輩が彼だったとのこと。その後、部署が変わってしばらく彼と会うことは無かったようで、たまたま本社に用があり、訪れた際に倒れていた彼を見て助けるという流れになったという。

「《佐藤》さん大丈夫かな…」

「おじさんの名前佐藤っていうの?」

「え、えぇ。もしかしてあなた知らなかったの?」

「う、うん…」

「だって別にあたしとおじさんはそんな深い関係じゃないから…」

「あたしはただの暇つぶし相手として選んだだけだし……」

「おじさんも多分そんな感じだと思う…」

「……そっか」

私の説明を聞くと彼は少し物悲しそうな顔をした。

「…それじゃあ私は別の用があるから、またね」

「うん。ありがとうお姉ちゃん」

「《和葉》」

「?」

「私のことは和葉って呼んでね妖精さん」

「分かった和葉お姉ちゃん!」

「ふふっ、それじゃあ…」

自分の名前を告げた彼女は彼のいる病室を後にした。今この部屋にいるのは私と彼だけ。彼は今も眠り続けている。カチッカチッ、と時計の針の音だけが私達のいる世界に鳴り響く。物静かな部屋の中時計の針の音を聞き、私は不安に駆られて最悪の結末を頭の中で作り出してしまっている。

彼が助からないという最悪の結末だ。

そうなった時誰も救えない。数回ではあるが彼と関わった私もダメージを負うし、和葉お姉ちゃんは私よりもきっと大きなダメージを負うはず。だって共に過ごした時間が私よりも長いから、その分彼との死別はきっと心にくるものだ。そして、彼の家族もきっと泣くだろう。私や和葉お姉ちゃんよりもずっとずっと辛いはず。自分の子が死ぬ瞬間も見たくないし、死んだという事実も認めたくない。そんな結末が有り得るというのだ…。何より悲しくやるせない気持ちになるのは彼自身だろう。彼の心の中がどうなるのかは私なんかじゃ計り知れない。

不安に駆られてこんな最悪の事態を想定してしまう私は、いつぶりなのだろう。妖精は良くも悪くも天真爛漫な性格をしている。だから何かを得る時も失う時もそこまで大きな差はない。感覚で言えば子供らしいというところだ。子供には罪悪感も劣等感も感じられない。虫の足を引きちぎってもそこに罪悪感は感じられない。泣ける話を聞かせても、子供にはそれを感じ取る感受性はまだ育ち切っていない。妖精はそんな子供達に近しい生き物なのだ。しかし私はイレギュラーだった。人間と同じように知性が進化して行った。私だけが妖精の中で物事を考えるという事が可能なのだ。そのせいで今私は苦しんでいる。初めてこの《物事を考える力》が足枷になると思った。

これもまた成長というのか、はたまた妖精界の異端児とも言うのか、少なくとも私自身にも大きな異変は感じられるということだ……

loading

この作品はいかがでしたか?

32

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚